デパートの生き残り戦略

デパートの生き残りをかけて

デパートの経営状態は危機的であると言われて続けている。数年来の課題であった客離れが、昨年からの新型コロナウィルス感染症の流行によって一気に加速し、どこの店舗も予想を超えた巨額な赤字を抱えることとなった。その結果、経営破綻やデパートの閉店が相次いでいる。特に地方デパートの閉店は、歯止めが利かないことになっている。現在のデパート経営は、闇の中でもがいて光が見えない状況に陥っていると言っても過言ではない。

闇から抜け出さなければ未来へ続く道はふさがれたままである。だが、デパートも立ち止まってばかりではないようだ。デパートからの気になる情報もある。デパートの既成概念を超えた新しい戦略が発信されだしている。今までにない柔軟な発想で再生を目指そうと新しい試みが行われているのだ。離れてしまった顧客を取り戻し、加えて新規の客を呼び込むという目標に取り組みだしたのである。これが、デパートの生き残りへの一筋の光となることを期待せずにはいられない。

高島屋の社内起業提案制度(フューチャープランニング)

高島屋では2017年に社内起業制度(フューチャープランニング)が発足した。応募数95件のうち、2019年から5つの事業が選ばれスタートしている。「客との新たな接点を生み出すこと」が事業の目標であり、社員であればだれでも気軽に応募できるが、事業の立ち上げから運営まで提案者が全責任を負い、収益が芳しくなければ事業は撤退となる厳しい制度でもある。その中で柔軟な発想による新戦略について注目をしてみた。

  1. セレクトショップ「メゾン・ド・エフ」
  2. 靴磨きサービス「シューシャインカウンター」
  3. 「お絵描き酒レポ」
  4. 機能訓練特化型デイサービス「タカシマヤ ユアテラス 二子玉川」
  5. (不明)

高崎高島屋 セレクトショップ「メゾン・ド・エフ」開店 2020年4月

高崎高島屋で「日常を上質なものに」をテーマに国内外のファクトリーブランドや ロングセラーデザイン雑貨をセレクトした「メゾン・ド・エフ」が2020年4月に開店した。

責任者の中里さんは、大卒後に松屋銀座に入社し紳士服を担当していたが、6年前に地元群馬にUターンし高崎高島屋に中途入社した。紳士服売り場に配属されたが、お客様から商品も少ないし面白いものが少なくなったと言われたという。中里さんは社内起業制度を活用して高崎店にしかない売り場を提案した。

人気の商品は、大阪にあるメリヤス工場が手掛けるカットソー専門のファクトリーブランド「「EIJI」エイジ」と桐生市にある4世代に渡って手染めの技術を継承し続ける染色工場「桐染」の「籠染め」がコラボレーションしたもの。この商品は、すべて異なる染め上がりのため世界に一着の商品となる。Tシャツは13,200円から販売。

新しい販売方法も取り入れ、シャツを縫製した「三恵メリヤス」の三木さんがオンラインで来店客に商品を説明することもある。「メゾン・ド・エフ」は、開店時から4倍に店を拡大し、売上げが厳しい2021年2月も目標を達成した。高崎店で評判となったことから、日本橋高島屋でもイベントが開催された。<2021年3月11日(水)〜3月18日(火)>

参考・ガイアの夜明け 『【「百貨店サバイバル」高島屋・三越伊勢丹の新戦略】』 2021年3月16日(火)22:00~22:54 テレビ東京

高島屋日本橋店・新宿店 靴磨きサービス「シューシャインカウンター」2020年8月

紳士靴バイヤー経験者の征矢さんが専任スタッフとして立ち上げた。日本橋店は8月1日から、新宿店は8月2日から、それぞれ週2回の靴磨きサービスを始めた。責任者の征矢さんは、1989年に入社。紳士靴のセントラルバイヤーを務めた靴のスペシャリスト。日本橋店と新宿店で合わせて週4日営業を行っている。日本橋店と新宿店それぞれの雰囲気に合わせて、企画担当者であり征矢さんが一から手作りした。常連客は「靴磨きをお願いするだけでなく征矢さんのお話を伺いながら過ごせるのは心が幸せになる」などと話す。現在、個人宅への出張サービスも検討中とのこと。

【メニュー】

①ライトポリッシュ(所要時間:約10分)予約不要
通常価格 1,500円、特別価格 500円
クリーナーで汚れを落とし、乳化性クリームにて保革、艶出しを行います。

②ライトポリッシュ&鏡面磨き(所要時間:約30~40分)要予約
通常価格 2,500円、特別価格 1,500円
上質な乳化性クリームによる基本ケア施工後、トゥ及びヒールをWAXにて仕上げます。

③プレステージ(所要時間 約60分~)要予約
通常価格 4,000円、特別価格 2,500円
靴の内部除菌消臭、ソールオイル塗布(※革底のみ)、デリケートクリームによる水分補給、こだわりのWAXによる鏡面仕上げ等、フルコースケアを施します。

※「特別価格」はポリッシュカードご提示時の価格。ポリッシュカードは、日本橋または新宿 高島屋の紳士靴売場にて靴を購入の際に受け取ることができます。

【設置場所】

◆日本橋高島屋S.C. 本館6階
「バッグ&シューズギャラリー」(紳士靴売場)内(水曜日および土曜日の午前10時30分から午後7時)

◆新宿タカシマヤ タイムズスクエア 6階
「シューメゾン」「シューメゾン オム」(紳士靴売場)内(木曜日および日曜日の午前11時から午後7時30分)
*5月26日現在 午前11時から午後7時まで

※緊急事態宣言が延長した場合、お休みが変更になる場合があります。

詳しくは、高島屋公式サイトを御覧ください

高島屋新宿店 コミックエッセイで和洋酒を紹介・販売 販売員による「お絵描き酒レポ」 2020年11月 

「もっと楽しくお酒をご案内できないものか・・・」と高島屋新宿店の和洋酒売場の販売員が、インスタグラムとツイッターを利用してコミックエッセイ風の「お絵描き酒レポ」を開始した。社内起業提案制度「フューチャープランニング」へ昨年6月に応募。7~11月には週に1日実際にイラストを描く準備期間を経て11月に開始した。普段は和洋酒売場で販売を行いながらイラストの製作を進めている。ユーモラスなイラストとわかりやすい説明でフォロワーも少しづつ増えている。

新宿高島屋 インスタグラム お絵描き酒レポより

玉川高島屋 介護サービスに参入 機能訓練特化型デイサービス「タカシマヤ ユアテラス 二子玉川」を2021年4月に開業 

現在、高島屋だけでなく百貨店の利用客は、大半が高齢者となってしまった。高齢化が進むにつれて、足腰が弱くなる人や、一人では外出できなくなる人などが増え来店する顧客が減っている。このような現状を踏まえて介護サービスという新しい事業を立ち上げたのは、高島屋経営戦略部の福田有里子さん。初めての介護施設の運営を、高島屋と順天堂大学が連携して行う。

主なリハビリの内容は

  1. 専門職の身体機能評価に応じた段階的なプログラム設定
  2. 専門職による評価のフィードバック
  3. 改善に応じた段階的なステップアップ

開業時は要介護(要支援)認定を受けた人を対象にサービスを行う。

そのほか、希望者には、理学療法士によるマンツーマントレーニングの提供などオプションサービス(実費)も用意されている。オプションサービス(実費)については、要介護(要支援)認定の有無に関わらず、誰でも利用できる。「タカシマヤ ユアテラス 二子玉川」

介護サービスで高齢者が元気になり、デパートや地域に活気が戻ることも期待されるサービス。地域とのつながりが強い郊外型デパートだからこそできるサービスである。高齢化社会に寄り添い、貢献することと同時に、百貨店の新たな利用者の獲得も忘れてはならない。この事業をきっかけに現在の利用者より年代の若い介護サービスの利用者家族を百貨店へ呼び込むことも同時に検討する必要がある。介護サービス事業は、どこも人手不足という弱点を抱えているが、高島屋ならではのスタッフ動員力や信頼感などの特別感を出していけるかどうか、地域にどのように受け入れらるのか気になるところである。

高島屋以外のデパートでも新しい戦略が発信されている。

三越伊勢丹 「リモートショッピングアプリ」を使いチャットでの接客販売 2020年11月

店頭にしかない商品もオンラインで簡単に決済できる。

伊勢丹新宿店では昨年11月からリモートショッピングが導入された。
店頭の全ての商品を、百貨店の接客でおもてなしをしている。単なるネットを通じた接客でなく、お客様とのやり取りの中で最適なコーディネートを提供するという仕組みである。このリモートショッピングは顧客離れが著しい呉服売り場でも導入され、店舗へ出かけていくのが困難になった高齢客へのおもてなしも始まった。伊勢丹新宿店に続き、2021年2月2日(火)から日本橋三越本店、2月9日(火)からは、銀座三越でスタートした。

オンラインによる販売は、デパートが生き残るための重要なポイントとなっている。今後はより便利で、より使いやすく幅広い年齢層が利用できるようになることが期待される。

大丸松坂屋 衣料品サブスクのサービス「AnotherADdress -アナザーアドレス」開始 2021年3月

大丸松坂屋百貨店は2021 年3 ⽉12 ⽇(⾦)、衣料品のサブスクリプション(定額課金)サー ビスを開始。月額1万1880円で国内外の50ブランドから毎月3着まで選んで利用することができる。ファッション業界は、新型コロナウイルスの影響などで頭打ち状態であるが、従来の百貨店の枠を取り払い、新生百貨店の未来の道しるべとなれるのだろうか。

新サービスは「AnotherADdress(アナザーアドレス)」の名称で展開する。「シーバイクロエ」「ジルスチュアート」など海外ブランドのほか、国内アパレル大手の三陽商会やオンワード樫山など複数のブランドが参加している。

サービスを利用するには、会員登録を行い、レンタルチケット3枚、配送チケット1枚などがついた月額1万1880円のプランを申し込む。申し込みが完了すると気に入った洋服を1か月3枚までレンタルして楽しむことができる。洋服返却時にレンタルした商品の中に気に入ったものがあればお得な価格で買取も可能。

サブスクは新たな消費形態として日本でも市場が拡大している。特にデパート再生に重要なターゲットとなる若い層の取り込みに期待ができるサービスである。

再び緊急事態宣言が発令

4月25日から4都府県(東京、大阪、京都、兵庫)に3度目の緊急事態宣言が発令された。世間は緊急事態宣言に慣れてしまい危機感が薄らいでいるところも見受けられるが、デパートは打つ手がない状態である。

緊急事態宣言期間は4月25日から5月11日まで。ゴールデンウィーク期間の人流を止める目的だが、街へ出ると人の流れが目に見えて減少しているようにはみられない。そんな中、対象地域のデパートは、食品、生活必需品売り場以外は休業中である。昨年の緊急事態宣言時の休業に加え、各デパートはさらに甚大な打撃を受けている。この状況下では、売上の要となるインターネット販売の強化、拡大を進めていくしかないようだ。デパートの未来はないという人たちもいるが、かつては人々の憧れの場であり、現在も人々の憩いの場、安心の場である百貨店は存続に向けて力を奮い立たせてほしい。それを願う大勢の顧客のためにも。

追記

5月12日以降も4都府県は、緊急事態宣言が延長となったが、各デパートでは生活必需品の定義を見直し、営業再開や営業拡大を実施する店舗が増えた。