デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年04月01 日号-第135 回 伊勢丹の戦略と戦術 (ストラテジーとタクティクス)

三越伊勢丹のロゴ
新宿伊勢丹

 本コラムでは2024年、2025年と続けて、12月15日号で「新宿伊勢丹に学ぶ」というタイトルで王者伊勢丹のインバウンド政策と富裕層シフトについて語って来た。

1.戦略 インバウンドと富裕層

 都心の大手百貨店は、一昨年のピーク時に比べ沈静化したとは言え、まだまだインバウンドの恩恵を受けている。一方地方デパートについては、インバウンドのプラス影響は都心と比べ、皆無に近い事は周知の事実だ。

 しかしだからこそ、地方デパートは繁盛する都心大手の動向、特にトップランナーである伊勢丹新宿本店の戦略とその方向性については、常に注視していかなければならないと思う。

 その中でも、富裕層政策とそのCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント =顧客との関係を戦略的に構築・管理し、長期的な利益と顧客満足度を向上させる経営手法)については、学ぶべき事は少なからずあるはずだ。

背景としての脱インバウンド

 先ずは、減少しているインバウンド売上について言及しておきたい。本紙では日本百貨店協会が発表する全国百貨店における免税売上高(インバウンド売上)とともに、インバウンド概況を月に一度掲載している。

 因みに3月号に掲載した2026年1月の免税総売上は501億3千万円で、前年同月比としては19%のマイナスとなった。これは3か月連続の売上減であり、中国政府による訪日自粛要請の影響であることは間違いようがない。

 中国からの訪日客は前年の98万人から本年1月は38・5万人まで減少し、前年比はマイナス60%を超えた(絶対数としては59・5万人の減)

 因みに前年1月の訪日中国人の全訪日客に占めるシェアは26%で訪日客中最多であったが、今年1月は11%まで落ち込んでいる(それでも絶対数では韓国、台湾次ぐ3位は死守している)。

 とは言っても、訪日客全体のマイナスは▲4・9%と微減に抑えられており、1月単月で100万人の大台を突破した韓国(+21・6%)を始め、台湾(+17・0%)、アメリカ(+13・8%)、オーストラリア(+14・6%)、タイ(+18・9%)からの訪日客が、各国とも10万人を上回り、かつ1月としては過去最高を記録したからである。

※中国、香港、マレーシアを除く訪日客上位20か国(中東、北欧地域を含め)はすべて過去最多を記録。

 いずれにしても、中国人訪日客は昨年8月に100万人を突破してからこの半年で急激に減少しているのは事実であり、中国人観光客の代名詞であった「爆買い」を背景としたインバウンドバブルは終焉を迎えたのだ、と言えるだろう。

 さて、中国人訪日客の減少について、わが国の首相の発言を揶揄する気は毛頭ないので、もう一つの要因を述べることにする。

 それは本コラム2025年12月1号に掲載した「モノ消費からコト消費へ」でお伝えした様な、消費者(ここでは訪日観光客)の行動変容があるのでは、という事だ。

 つまり背景として、インバウンド客、特にリピーターの成熟化が進んでいるのかもしれないのだ。

※以下引用する。

消費の進化は続く

 このように、現代の消費は「買う」こと自体よりも、「なぜ買うのか」「誰と、どんな気持ちで体験するのか」といった物語や感情が重視される様になっている。

 であれば、デパートにとってのラスボス(敵)であるアマゾンや楽天に代表されるEC(ネット通販)に対し、これらのコト消費(トキ消費、イミ消費、エモ消費)は、百貨店がECとの差別化を図る上で非常に有効なアプローチなのではないだろうか。

 これらの消費スタイルは、単なる「モノ」の購入ではなく、体験や時間の共有、意味や共感、感情的なつながりを重視するため、百貨店がその地域でのリアルな「場」の強みを活かせるからだ。
※ここまで。

 こうした消費のモノからコトへの変容は、日本で暮らす顧客だけでなく、訪日観光客にも起こっているのではないか、という事だ。

 そもそも中国人の爆買いは、高級ブランドの値上げ+円安に加え、日本の百貨店で「おもてなし接客」を堪能することで得られるステイタス意識や、訪日観光ブーム、果ては転売ヤーの存在、等々、様々な要因が重なったことにより出現したと考えられる。

 そして都心百貨店としては(新宿伊勢丹も松屋銀座も)当然インバウンド対応に注力をしていたが、特に伊勢丹は「インバウンド一本足打法」を避けるために、富裕層シフトをもう一本の柱に据えている。それが本稿冒頭で触れた「伊勢丹に学ぶ」の中身である。ここからは富裕層シフトだ。

※再び引用する。

富裕層の囲い込み

 (伊勢丹では)一方では好調な国内顧客が売上を下支えし、インバウンドマイナスを相殺している実態も見える。株高による資産効果の追い風を受け、富裕層向け消費は堅調なのだ。これは、クレジットやオンラインストアでの会員向け販売の好調が裏付けている。

 特に三越伊勢丹グループで年300万円以上の買い物をする顧客(プラチナステージ会員)による売上見通しは11%増となり、従来想定から60億円上方修正した。

プラチナステージ

 これを「外商など富裕層の売上が堅調に推移した。」で片づけてしまうのが、経済ニュースの悪癖だ。実態は、一向に歯止めのかからない「物価上昇」の影響により「今までの生活を維持しているだけ」の富裕層であっても、その消費支出は優に
10%以上アップしているのだから。

 もし富裕層が、自らの生活水準を「現状維持」で止めようとしても、生活費の水準が上がっているので実質支出は増加する。なぜなら、物価高であっても、MI(三越伊勢丹)カードプラチナ会員には節約して「生活水準」を落とすという選択肢はないからだ。

 そして何より、伊勢丹での買物を、年間300万円以下に抑えて、プラチナステージで獲得した「優待」を失うのは、彼ら彼女たち富裕層(準富裕層も含め)には「没落」を意味する。

 金もあるけどプライドはそれ以上にあるのが「富裕層」というものだ。
※もしもそうでない富裕層の方をご存じでしたら、個人的に筆者に教えて欲しい。

※引用終わり。

 と、ここまでは伊勢丹の富裕層シフト、というより「富裕層」と呼ばれる(いや、呼ばれたい)人の実態(生態)を分析してきた。※筆者のやっかみ半分ではあるが。しかし、というべきか、やっぱりというべきか、王者伊勢丹を甘く見てはいけない。

 去る2月、伊勢丹は自社のCRM政策の要であるMIカードのカスタマープログラムの変更を発表した。プラチナ会員の上位に当たるプレミアダイヤモンドステージを新たに設定したのだ。

 筆者が驚いたのは、実態としては既にプレミアダイヤモンド会員は存在していたが、秘匿されていたことだ。そしてこれからはプラチナからダイヤモンドへの格付けアップの要件を公おおやけにして、更に富裕層シフトを徹底していこう、という目論見らしい。

 年間買い上げ300万円から500万円を飛び越え、一気に1000万円の大台に設定するという事からも、伊勢丹の富裕層政策の本気度が窺える。ちょっと長くなるが、以下伊勢丹のホームページから要点を抜粋してみよう。

プレミアダイヤモンドステージ
ご挨拶
 平素より三越伊勢丹・カスタマープログラムをご愛顧賜り誠にありがとうございます。
 これまで非公開にて運営してまいりました、三越伊勢丹・カスタマープログラムの最上位ステージ 『プレミアダイヤモンド ステージ』 の情報を、このたび公開する運びとなりました。
 より多くのお客さまに広く存在を知っていただき、お買物の際の特典やサービスを最大限にご活用いただくことを目的としています。
 併せて、ご利用方法の改善やサービス・特典内容の刷新も検討しており、2026年秋頃、本WEBサイト内にて詳細のご案内を予定しています。(プレミアダイヤモンド ステージの刷新サービスは2027年2月1日(月)からスタート予定)
 今後もサービス内容の改善を重ね、価値あるお買物体験をお届けできるよう努めてまいりますので、引き続き、三越伊勢丹・カスタマープログラムをご愛顧のほどお願い申し上げます。
  2026年2月末日

 改めて、三越伊勢丹のカスタマープログラムのランク付けを確認しておこう。

 曰く「三越伊勢丹グループ各店での年間お買いあげ額に応じて翌年のステージが決定します。」とのこと

・プレミアダイヤモンドステージ
 年間買上額 1000万円(税込)以上
・プラチナ ステージ
 年間買上額 300万円以上
・ゴールド ステージ
 年間買上額 100万円以上
・シルバー ステージ
 年間買上額 30万円以上
・ホワイト ステージ
 年間買上額 30万円未満

 尚、三越伊勢丹は2027年からポイント制度の変更を予定しており、詳細は2026年の秋頃にお知らせします、としている。百貨店ポイント+クレジットポイントに加え、新たにボーナスポイントを付与など、こんなことを言ったら叱られるかもしれないが、筆者には正直「複雑怪奇」なシステムに見える。冗談でなく、わざと難解にしているのではと疑ってしまうほどだ。


2.戦術 春の演出

春を思わせるショーウインドウ

 さて、ここからは少しリアルな生活に則した話題に移ろう。百貨店、駅ビル、ショッピングセンターを問わず、4月は春物の最盛期だ。ファッションは色鮮やかなワンピースや、街歩きやリゾート向けのカジュアルウェアが花盛りだ。

 昨今は夏の訪れが早くなった、といよりも真夏の期間が長くなったことにより、春物を販売する期間が(秋物もそうだろうが)極端に短くなってしまったからでもある。

 5月は既に「暑い」ことが予定されているのだ。地球温暖化により、デパートにとっても何とも難しい世界になってしまったものだ。

 只、デパートは顧客に「季節感」を提供する役目(義務?)があるので、ショーウィンドウも館内演出も花柄や桜のモチーフが多く用いられる。都心でもちょうど桜が満開となり、来店客をちょっとウキウキとした気分にさせてくれるのだ。

 こうした季節演出はデパートの大事な役割だと筆者は思う。そしてインバウンドや富裕層シフトなどの大きな戦略だけでなく、年末年始やバーゲンセールといった企画や歳時記を通して、人びとの暮らしを潤す小さな「戦術」も必要不可欠なのだ。

 そういった意味で、筆者は3月末の新宿伊勢丹で春を感じるスナップ写真を収集してみた。

デパ地下の春

(いちご最盛期に入り、スーパーでもとちおとめとかあまおうなど1パック500円を切る価格だが、さすが伊勢丹は高い品種が多い。)

 新宿伊勢丹の地下1階の食品売場、いわゆるデパ地下は昨年筆者が出演したテレ朝の情報番組「タモリステーション」でも紹介した様に「日本一のデパ地下」だと思う。
※あくまで私見だが・・・

外出すれば、そこかしこで桜の花が見られるのに「デパ地下で春を感じる」というのは、完全に職業病である。筆者は都会に住んでいる訳でもないので尚更だとも思う。

 今回は伊勢丹のインバウンドや富裕層政策といった大きなテーマで始めたものの「デパ地下で春を知る」という、話を小さくまとめるコトになってしまった。

 デパートにとって戦略は大事だが、小さな店頭演出であっても日々来店されるお客様への情報提供であり、ディスプレイ一つとっても、それは現場スタッフの「おもてなし」であることは述べておきたいと思う。閉店してしまう百貨店は、そういう積み重ねをおろそかにしてきたのではないか、とも思うからだ。

P.S.改装

地下1階改装のお知らせ

 因みに新宿伊勢丹は3月25日、本館地下2階の「イセタン ビューティアポセカリー」をリニューアルオープンした。従来のナチュラル・オーガニックの品揃えに、サイエンスやテクノロジー関連商品やサービスを拡充、統合的な視点で美と健康を提案する売場へ再構築した。
 地下2階ビューティ売場の刷新は14年ぶりであり、ビューティ アポセカリーが2012年に地下2階に移設してから最大規模の改装となる。