デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年7 月01 日号-第118回「デパ地下進化論」から考える

山田悟編集長

 6月13日に筆者が出演したテレビ朝日の特番「タモリステーション:デパ地下進化論」に関連し、今や百貨店の主力アイテムとなった「食品」を取り上げたい。
前後編に分けて7月1日号と15日号と続けてお届けする予定だ。 因みに、タモリステーションは「見逃し配信」がない様だ。見逃した方スミマセン。

タモリステーション

 「タモリステーション:デパ地下進化論」は、6月13日の夜8時からの2時間特番だ(実際は1時間48分)。御覧になっていただけたであろうか?デパ地下の歴史を紐解き、時代ごとにブームを作って来たスイーツやグルメを紹介した。

 更に総菜店のライバル同士が鎬(しのぎ)を削るガラスケースのディスプレイ合戦も興味深かった。

 だが、何といってもタモリさん本人が新宿伊勢丹のデパ地下を巡り、探る「本筋のロケ」の面白さが秀逸であった。

 前回の「新幹線(年史」もそうだったが、タモリステーションの真骨頂は「現場ロケ」に尽きる。

 専門家の話などは、視聴者の耳を素通りだろう。出演した本人が言っているのだから、これについては間違いない。

伊勢丹取材

メイン取材先の新宿伊勢丹

 筆者が驚いたのは、「デパ地下」の取材を許可してくれた、伊勢丹新宿店の全面協力だ。

 今回タモリさんとテレビ朝日の渡辺瑠海アナウンサーを案内した、三越伊勢丹の営業部長、中野健一さんは2007年の全面改装により、新宿伊勢丹に日本一のデパ地下を誕生させた張本人だ、と言う。

 普段メディアの取材に厳しい新宿伊勢丹だが、今回は取材を快諾したという話だ。

 ここからは筆者の推測だが、タモリさんと新宿の街には浅からぬ縁がある。誰でもが知っているバラエティ番組の金字塔「笑っていいとも!!」の収録が行われた「新宿アルタ」は三越伊勢丹が運営していたからだ。

 その当時のアルタの担当者の口利きのおかげで、三越伊勢丹の広報部が取材依頼をOKした、という流れではないかと思う。

 まるで誰かに聞いた話をそのまま書いている様な感じだが、これはあくまで推測だ。もう一度断っておく。

デパ地下シェア

ここでデパート新聞らしく、全国の売上上位50店舗の全体売上と食品売上と食品シェアの表を掲げる。

順位店舗名販売上 (億円)食品売上 (億円)食品シェア (%)
1伊勢丹新宿本店3,75856615%
2阪急うめだ本店3,14047815%
3JR名古屋高島屋1,940--
4高島屋大阪店1,59133321%
5三越日本橋本店1,52838525%
6高島屋日本橋店1,47642929%
7高島屋横浜店1,31836928%
8松坂屋名古屋店1,26821517%
9あべのハルカス近鉄本店1,211--
10大丸心斎橋店1,06418617%
11三越銀座店1,04718518%
12松屋銀座本店1,01710510%
13高島屋京都店97222924%
14東武池袋店93431934%
15高島屋岡山店 (福岡県)91410411%
16大丸札幌店91113815%
17高島屋新宿店88116419%
18そごう横浜店805--
19大丸東京店78324031%
20大丸札幌店75416622%
21大丸京都店70014821%
22JR京都伊勢丹69021431%
23阪神梅田本店66031047%
24博多阪急 (福岡県)65012819%
25西武池袋本店600--
26そごう千葉店572--
27藤崎百貨店 (宮城県)550--
28博多大丸 (福岡県)54112323%
29小田急新宿店50411623%
30京王新宿店47921545%
31トキハ本店 (大分県)479--
32井筒屋本店 (福岡県)47012326%
33高島屋玉川店46513028%
34名鉄名古屋4558218%
35三越越前店443--
36鶴屋百貨店 (熊本県)43012329%
37京阪百貨店守口店424--
38福屋八丁堀店 (広島県)404--
39神戸阪急40015439%
40伊勢丹浦和店38011229%
41大丸梅田店37912934%
42山形屋本店 (鹿児島県)37312734%
43西武渋谷店37013536%
44新潟伊勢丹3609526%
45高島屋柏店34716247%
46天満屋岡山本店 (岡山県)338--
47伊勢丹立川店3268526%
48そごう広島店296--
49北千住マルイ289--
50松坂屋上野店26810539%
※シェアは13店舗を除いた平均32,6087,41323%
グループは食品売上非開示店全体平均は27.4%

 おなじみの大手デパートがずらりと並んでいるが、食品シェアの数値が「まちまち」な事にお気づきだろう。その辺を少し解析していきたい。

インバウンド

 先ず気が付くのは、1位の新宿伊勢丹と2位のうめだ阪急の食品シェアが50店舗の平均シェアである23%を大きく下回っている事だ。

 もちろん、総売上が3000億を超える東西トップの両店であるから、シェアの分母が大きすぎる事が、食品シェアを15%に留める理由だ。
なにしろ、食品売上だけで500億クラスなのは全国でこの両店舗だけなのだから。店舗売上30位レベルの「トップデパート」に匹敵する食品売上だと言うことだ。

元祖デパ地下か ? 名古屋松坂屋

 因みに、この2店舗に加えて、食品シェアが10%台なのは、名古屋松坂屋(17%)、大丸心斎橋(17%)、銀座三越(18%)、福岡の岩田屋(11%)などで、松屋銀座(10%)は、食品データを開示している中で最も低い値だ。

 これらの店舗に共通しているのは、各エリアでのインバウンド比率トップの店舗であることだろう。 国内の富裕層とインバウンド客が、ハイブランドのファッションや宝飾を「買いまくっている」店だ。その中で、最も顕著な例が松屋銀座である。5月15日号でもお伝えした様に、松屋の免税品シェアは5割を超えている。

お土産とお弁当

 逆に食品シェアが30%を超える店舗は14位の池袋東武(34%)、19位の大丸東京(31%)、22位のJR京都伊勢丹(31%)だ。

 賢明なる購読者諸氏には、もうお判りのことだと思うが、東京駅と京都駅は新幹線を含むJRのターミナル駅であり、インバウンドも含めた「お土産需要」と「お弁当需要」が極めて大きい。

 それらと比べて、大阪駅や横浜駅は新幹線のターミナルが新大阪や新横浜となり、JR在来線と異なるため、観光客が分散してしまうのではないだろうか。

 残念ながらデータ非開示のJR名古屋髙島屋の数字も、ぜひ知りたいところだ。髙島屋の日本橋(29%)と横浜(28%)の食品売上シェアから、ある程度低くない事は判る。

エリア2位

 さて、それでは14位の池袋東武の食品高シェア(34%)は何を意味しているのだろう。これは、かつて全国3位の売上を誇った池袋西武( 現在売上非公表) が、池袋の街でルイヴィトン、エルメス、シャネル、カルティエといった、めぼしいハイブランドをほぼ押さえてしまったことによる。西武同様、大きな面積を持つ東武だが、ハイブランド以外で強みを発揮するため、「食」を選んだのだ。

 池袋東武はワンフロアが広大であるのに、地下2階と地下1階の両フロアを食品で埋め尽くしている。

 そして、都心の百貨店では面積的におざなりにされがちな、生鮮三品やグロサリーを充実させているのだ。※実は改装前の池袋西武もそうだったが…

 加えて、8階の催事場は(筆者の感覚では)ほぼいつも何らかの物産展をやっている。池袋東武の催事カレンダーを見て欲しい、8階催事場で「食テーマ」が途切れることはない。

 蛇足だが、レストラン街も5層あり、新宿伊勢丹の5倍はあるだろう。23位の阪神梅田本店(47%)にも、同じかそれ以上の食への注力を感じる。さすがは食い倒れの街だ。

 今は同じ系列だが、西の雄である「うめだ阪急」との競合が理由だ。関西の首都とも言える梅田において、ハイブランドが阪急に偏在しているのは言うまでもない。

シェア逆転

 全国百貨店売上上位50店舗を表にしているが、実際は1/4の13店舗が食品売上を非開示としており、残った37店舗の食品売上の平均シェアは23%だった。

 2023年は既にインバウンドの高まりが顕著になっており、新宿伊勢丹、梅田阪急の様に売上高上位の店舗ほど食品シェアが小さくなっているからだ。

 尚、百貨店売上全体で見れば、食品シェアは27%を超えており、デパートのアイテム別トップは衣料品ではなくテバ地下となっている。

 タモリステーション内でも筆者が円グラフで説明したが、30年前のバブル崩壊直前の時期には、アイテム別トップの衣料品シェアが40%超なのに対し、食品は20%を下回っていたのだ。

 つまり、30年前のファッション全盛期には食料品は衣料品の半分のシェアしかなかった。今では(2023年の数値)アイテム別トップは食品27・4%に対し衣料品は26・9%と逆転している。デパートの主力売り場はデパ地下に変わったのだ。
※タモリさんも「デパートの柱」は食品だと言っている。

ファッション比較

 かつてデパートの主力商品であったファッションは、ユニクロや、しまむら(H&MやZARAも含めて)といったファストファッションの台頭により、中間層から下の層の支持を失い、ハイブランドの洋服しか売れなくなった。

 一方でデパ地下は、地元の商店街、スーパー、コンビニ、道の駅など、いろいろな販売拠点のどこと比べても高価格であるにも関わらず、顧客の支持を失わなかったのだ。
※同一商品でエルメスとユニクロの価格差はざっくり10倍以上ある。

 では、スーパーやコンビニでコロッケはいくらであろう。今は100円や150円はするだろう。

 番組でも紹介した「柿安ダイニング」の松坂牛入りメンチカツは確かに465円とお高めだが、「神戸コロッケ」のじゃがいもコロッケは税込み141円だ。

 街場のコロッケと比べ、少し小さいかもしれないが、誰も文句は言わないのではないだろうか。

 筆者は番組でも言及したが、富裕層であっても庶民であっても「食のプチ贅沢は止められない」のだ。

プチ贅沢

 キーワードである「プチ贅沢」は「小さな幸せ」の結晶だから、明日の飯にも困る人は別として、デパ地下ではほんのちょっとの「背伸び」で、幸せが得られるのだ。

 ヴィトンのバッグは諦めても、ノアドブールのフィナンシェは列に並べば手に入るのだ。それも、1個249円で。

 今時250円で日本一の(日本一のデパ地下で最も売れている)スイーツが手に入るのだ。

 こんな民主的な「庶民でも手の届く贅沢」を「プチ贅沢」と呼ぶのだ。

 本当の富裕層から見れば「いじましい」消費なのかもしれないが、「いいじゃないの、幸せならば」である。
※因みに、タモリステーションでも昭和を遡るVTRのバックで、佐良直美の「世界は二人のために」が流れていた。

 別の方向から見てみよう、ハイファッションには金とセンスの両方が必要だが「デパ地下グルメ」は小金さえあれば、だれにでも「小さな幸せ」を提供してくれるのだ。何より、百貨店は敷居が高くて・・・という客にもデパ地下はウェルカムなのだ。

◎付録

この後は、ちょっとした付録の様で恐縮だが、タモリさんとのスタジオでの想定問答を予習したのでここで披露したい。※もちろん収録もしていないし、放送もされていない。

 題して、編集長がホントは言いたかった、タモリステーション想定問答だ。

タモリ「デパ地下の進化の要因とは何ですか?」

山田『例えば地価の高い都心のデパ地下であれば、高い賃料を払うため、高い売上が必要です。只、デパート側もそれだけを求めてはいません。省スペースでの高効率運営のため、テナント側も最も優秀な人材を配置します。

 もちろん利益を出すことは大前提ですが、テナントは顧客の期待に答えるため、必ず売れる商品を開発、投入し、個数を確保します。

 デパートとテナントがタッグを組んでお客様のために「切磋琢磨」する理想の売場がデパ地下のではないでしょうか?

 そしてデパートは、テナントに「ブランド価値の継続性」を求めます。一過性のブームのスイーツなどは逆に敬遠します。』

タモリ「デパ地下等で流行したスイーツを教えてください?」

山田「年代別に、1990年ティラミス
91年クリームブリュレ
92年タピオカ
93年ナタデココ
94年パンナコッタ
96年スターバックスフラペチーノ
97年ベルギーワッフル
98年タピオカティー
99年エッグタルト
2001年抹茶
03年メロンパン 
05年マカロン 
06年 生キャラメル
08年パンケーキ
10 年バームクーヘン
12年抹茶
13年アサイーボウル
15年高級食パン
18年タピオカ 
19年フルーツサンド
20年バスチー(バスクチーズケーキ)
21年から マリトッツォ カヌレ 台湾カステラ モンブラン あんバターサンド フィナンシェ チュロス 抹茶(継続中)

※あくまで個人の感想なので「あれが入ってない!」といったクレームは受け付けない。悪しからず。
個人と言えば、ウチでは今クレープとクッキー缶がプチブームだ。我が家がプチブルである証拠だ。