デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年2月15日号-第109回 名鉄百貨店の閉店

名鉄百貨店ロゴマーク

2024年が押し詰まってから、百貨店の閉店に関するニュースが入って来た。今度は名古屋の名鉄百貨店である。


名古屋4Mは今

  地元民にとっては当たり前だが、名鉄百貨店本店は名鉄名古屋駅の改札前にある。名鉄の乗り場はJR、地下鉄と近鉄の中間だ。いや、逆だったか。ちょっと複雑なので思い出せない。

 名古屋鉄道が2026年春に名古屋駅前の名鉄百貨店本店の閉店の検討に入ったことにより、名古屋エリアの百貨店運営は大きな転換点を迎えることとなる。

 東京、大阪に次ぐ三大都市の一つである名古屋。かつては「4M」と呼ばれた百貨店4社(松坂屋、三越、名鉄、丸栄)がしのぎを削っていた。

※最近は髙島屋も含め、4M1Tと呼んでいるらしい。筆者は初耳だが。それが名鉄本店の閉店により3社に縮小する。というより、既に百貨店としての実態を持たない丸栄も除き、2M1Tではないだろうか。これについては後述する。

 今は既に、名鉄百貨店の後継となる商業施設に話題は移っている様だが、消費者含めた外野からは、周辺施設にはない独自性を求める声が相次いでいる、という。

シニア向け

 名鉄百貨店本店は中高年層向けのファッションや雑貨などを充実させてきた。当初は松坂屋、三越とのMDの差別化であったが、近々では隣接するJR名古屋タカシマヤとの差別化対応からであろう。
卑近な例で判りやすく言えば、新宿における京王百貨店の様な位置付けだ。巨大ターミナル駅において「シニアデパート」としての役割を担って来た訳だ。

 名鉄本店の閉店報道を受け、若い利用客からは「名鉄は化粧品やファッションの品揃えは髙島屋に劣る。店内が暗く活気がない」といういささか辛辣な声も聞かれた。

 名鉄本店は1954年に開店し、長年、名古屋駅前のシンボルの一つとして親しまれてきたが、老朽化が進んだ施設が多くなってしまった。

 名古屋鉄道は名鉄本店や名鉄グランドホテルが入居するビルの解体を2026年度中に始め、翌27年度に再開発に着手する計画だ。名鉄は既存顧客の維持のための施策も検討する、としている。

2M1Tに

 名鉄本店の閉店は名古屋のような巨大消費地であっても、百貨店の運営が厳しいことを物語っている。それは既に都心の銀座、渋谷、新宿、池袋でも実証されていることだ。

 昔は名古屋の百貨店は名古屋駅前の松坂屋(2010年に閉店)と名鉄本店、栄地区の松坂屋、名古屋三越、丸栄というラインナップだった。 

 因みに4Mの一角であった「丸栄」は2018年6月30日に閉店し、丸栄の跡地には、2022年3月31日に商業施設「Maruei Galleria(マルエイガレリア)」がオープンしている。

 4Mに加えて、JR名古屋駅に直結するJR名古屋髙島屋が2000年に開業したことを受けて、名古屋の百貨店は4M1Tと呼ばれる様になった、という。

 だが、2018年の丸栄に続き、今回の名鉄本店の閉店により2M1Tとなり、運営会社は実質3社に減る見通しだ。

 ここで、名鉄のライバル達の状況もお伝えしておく。

外商の松坂屋

松坂屋名古屋店 
左側は南館、右側が本館、右端が北館

実は名古屋の百貨店売上高は総額で減ってはいない。

 日本百貨店協会によると、コロナ禍で一時落ち込んだものの、2023年度は3808億円と、10年前の水準とほぼ変わらない。

 もちろん、郊外ショッピングセンターやEC(インターネット通販)に顧客に一定数を奪われてはいるが、富裕層御用達のラグジュアリーブランド(貴金属、バッグ、ファッション)いわゆる百貨店需要は健在だ。
名古屋エリアでは、そうした需要への対応力で店舗ごとの差がついていると言って良い。

 特筆すべきは名古屋松坂屋であり、百貨店業界では長年「日本一の外商部隊」を抱えているという通説があり、おそらく事実だろう。

 一方、名古屋市内で首位のJR名古屋タカシマヤはラグジュアリーブランドや若者に人気のアパレルや、海外ブランド化粧品などの誘致・改装を継続的に進めている。

 そうしたライバル達に対し、名鉄本店は中高年層向けの衣料雑貨や食品の催事を主力としてきた。

 だが、前述したビルの老朽化に加え、近鉄グループの商業施設などと入り組んだ複雑な駅ビルの構造上の問題もあり、抜本的な改装に踏み切れなかった。

 利用客からも「迷路のような店内は変えて欲しい」との指摘(クレーム?)も聞かれていた。

髙島屋一番店

JR名古屋タカシマヤ 後方のツインタワー
( ホテル棟とオフィス棟) が目印

 名鉄本店の2023年の売上高は352億円と10年前を下回り2024年3月期の連結業績では百貨店事業が21億円の営業赤字となっている。

 一方お隣のJR名古屋タカシマヤは10年前から60%アップの1891億円まで拡大。正に名古屋で「一人勝ち」の状態だ。それどころか、老舗百貨店である髙島屋の中でも、日本橋、横浜、大阪を上回る一番店となったのだ。

 因みにJR名古屋タカシマヤ(2000年開業)は、J R 京都伊勢丹(1997年)、札幌大丸(2003年)と同様、ターミナル駅から離れた繁華街立地の既存デパートに対抗するため、遠隔地からの乗降客を取り込むJR駅上の大型百貨店としてオープンした。

 結果としてそれまでの繁華街である京都三条、名古屋栄、札幌大通りの老舗デパートを凌駕する、エリアナンバーワンの百貨店となったのだ。名古屋タカシマヤはその最たるものであろう。

 面積半減により凋落する西武池袋本店に替わって、新宿伊勢丹、うめだ阪急に次ぎ、名実ともに日本で三番目の百貨店となったのだから。

 名鉄がその割を食ったのは仕方がないことかもしれない。

観光拠点

 但し、今回の名鉄百貨店跡の再開発は、グループにとっても、地域住民にとっても、ゼロからリスタートできるチャンス到来、と見る向きもある。中部国際空港に直結する名鉄電車の利点を生かすためのリニューアルにトライ出来るチャンスでもあるからだ。

 名鉄本店の飲食フロアには味噌カツや味噌煮込みうどんといった、人気の「名古屋めし」の名店も揃っており、国内旅行の若者だけでなく、キャリーケースで闊歩するインバウンド客も目立つ。 

行政のお偉方や、識者でなくとも、周辺観光のハブ拠点として、長期滞在できる高級ブランドのホテルを熱望する声は小さくない。

 中部国際空港から名古屋駅への玄関口の名鉄名古屋駅に直結していることを生かし、観光案内所や土産物コーナーを充実させる施策も考えられる。

リニア新幹線

 日本第三の大都市「名古屋」はインバウンド集客については、周回遅れの感が強く、大規模開発が相次ぐ東京駅や大阪駅周辺などへの対抗策が喫緊の課題であることは明白だ。

 名古屋の観光拠点としての魅力を高めるには、駅直結の「新たな名鉄ビル」の成功が不可欠なのだ。

 名鉄が名古屋駅ビルの再開発を終える計画の2040年には、JR東海が2034年以降を予定しているリニア中央新幹線の開業とも重なる。
「名古屋飛ばし」と揶揄されてきた三大都市の一つをどう成長させるか。行政も含め、エリア全体を見据えたグランドデザインが求められている。

ナナちゃん

 と、ここまで大まじめな話で終始して来たが、実は筆者は、名鉄百貨店のエントランスに立っている「ナナちゃん」の去就が気になっている。

 ナナちゃんは、地元民にとっては、名古屋城の金のシャチホコ以上に有名な名古屋駅のシンボルである。そういう意味では、渋谷のハチ公像並みの人気者だと思っているのだ。ハチ公と大きく違う点は、その6mの大きさと、コスプレ(着せ替え)機能である。

 今回発表された名鉄百貨店の閉店に伴い、移設は仕方ないとしても、引退だけは是非回避して欲しいものだ。存続運動があれば是非参加したい。勝手に先回りして恐縮だが・・・

 万が一知らない方のために説明しておこう。

 デパートのマスコットキャラクターは全国津々浦々に存在するが、これほどの知名度と発信力を持った存在はナナちゃんだけであり「日本一のデパートマスコット」の称号を与えたい。もちろん筆者の独断だが。

 ナナちゃんは、名古屋名鉄のマスコットとして、半世紀の長きにわたり、広告塔として宣伝活動を続けている。名鉄スタッフの労力はいかばかりであろう、頭が下がる。本コラムでは、毎度地方デパートの苦境を伝えているが、こういった活動は、単なる話題作りと思われがちだが、もちろんそれだけではないのだ。

ナナちゃんの来歴

 1972年にオープンした名鉄百貨店セブン館(2006年にヤング館に改称)の一周年を記念して、何かシンボルが必要との判断から、東京の展示会で見つけた大きなマネキンをマスコットにすることにした。

 名前は一般公募し、セブンをもじって「ナナちゃん」とつけた。こうして名鉄前にナナちゃんが誕生したのだ。名古屋駅前の顔として愛され、今も待ち合わせの場所としても利用されている。この辺りは小さな先輩ハチ公と同じだ。

 ヤング館が2011年に閉館した後も、ナナちゃんは名鉄百貨店の現役広報部員なのだ。

ファッション

 夏は水着、正月は鏡餅、獅子舞、セール時期には法被( はっぴ) と季節ごとに変わる。また、交通安全や火災予防運動といったキャンペーンのたすきなど、地域社会への貢献にも一役買っている。

 アニメや映画のキャラクターの扮装(コスプレ)は数えきれない。

プロフィール

生年月日:1973年4月28日
身長:6m10cm
体重:600kg
バスト:2m07cm
ウエスト:1m80cm
ヒップ:2m15cm
素材:FRP硬質塩ビ樹脂
出身:スイス 

 尚、ナナちゃんにはミナちゃんという妹がいるらしい。身長は姉の1/6の1mで、スリーサイズは秘密、となっている。姉と違って子供設定だからであろうか。

化身

 ナナちゃんはマスコットなのに、実はキャラクターがない。無表情であり、無人格である。大きなマネキン人形なのだから当然なのだが・・・

 マネキンはどんなキャラにも変身出来、その時代に合わせ千変万化する。実はデパートの本質がここにあるのではないだろうか。

 時代に応じて、新たな顔で新たな表現を提供する、それがデパートの「使命」であるからだ。お客様が来店した時に「今の世の中こういうモノが流行っているのか」という発見をして貰うことがデパートのミッションなのだ。

 デパートの情報が古くて、使い物にならなくなった時、それはデパートの死を意味する。勝手な思い込みと言われるかもしれないが、筆者はそう思っている。

 ナナちゃんはデパートの化身なのだと。