地方デパート 逆襲(カウンターアタック)プロジェクト そのその44 資本主義の次に来る世界とデパート
【成長を抑制する思考】
経済人類学者のジェイソン・ヒッケル氏の著作「資本主義の次に来る世界」という本は「消費のリスク」について語られており、大変興味深い内容です。資本主義は無限に成長していくことを前提としていますが、それは地球のキャパシティーを超え、生態系を破壊し、環境を激変させる状況を迎えています。
国連の特別なタスクフォース(チーム)によると、1970年以来鳥類・哺乳類・爬虫類・両生類の数は半分以下になり、100万種ほどが数十年以内に絶滅の危機にあるそうです。生物多様性を研究するIPBESのアン・ラリゴーデリー事務局長は、「わたしたちは、現在組織的な方法で人間以外の全生物を根絶しにしている」と述べています。
既にグローバルサウスと言われる南アジア・アフリカなどは明確にその徴候を示しており、高温による家畜の大量死や農産物の飢饉が常態化し、頻発する大規模な自然災害を生み、多くの難民を現出させています。こうした事態を引き起しているのは、長年に亘って資本主義に基づきそうした地域の資源を貪ってきた先進国の責任に他ならないと考えられます。資本主義の成長思考は19世紀の帝国主義による植民地政策と同質であるわけです。
成長については、次のような見方が示されます。成長という概念はとても自然に思えるので、わたしたちは当り前と見なしがちですが、自然界の成長には限界があり、生物はあるところまで成長すると健全な均衡状態を維持します。成長が止まらないのは、言うなればコーティングエラーで癌などが起きてしまう…。これに倣えば、無制限の成長に依存する資本主義は、生態系の破壊へ邁進しているというわけです。
世界中から環境優先思考へ
ところで、イエール大学による2018年の世論調査では、アメリカ人の70%が「環境保護は成長より重要だ」という文書に同意しているそうです。また、2019年欧州外交問題評議会はEU14カ国の人々に「環境を優先することで、経済成長が損なわれてもそうすべきと思うか」と問うたところ、ほぼすべてのケースで55~70%が「イエス」と答えたというのです。
ある大規模な消費者調査研究によると、全世界の中・高所得国では、平均で70%の人が「過剰消費は地球と社会を危険にさらす」「自分たちは購入と所有を減らすべきだ」「減らしても幸福感や充足感は損なわれない」と考えているというのです。
消費の見方を変えよう
その中でのキーワードが、消費なのです。資本主義を推進させる原動力として消費活動は不可欠なことから消費は絶対的善のように捉えられてきましたが、結果的に地球の将来を危うくすることを考えると消費もまた新しい見方をする必要がありそうです。
例えば、物流により生じる資源の費消やCO2の拡充を抑制することを考えれば、地産地消は絶対的に必要であり、今迄ネガティブな要素は全くなかった貿易なども無制限にすべきことではないという判断も起きてきます。製造業においても生産性の拡大に一定の限度を設け、今ある施設や技術を上手に活かして身の丈の経営をすることも問われます。つまり、環境汚染を守るためプラスティック製品のゴミ袋を有料化して、少しでも減らすようにする小市民の涙ぐましい努力などでなく、はるかに踏み込んで成長を抑える方法を国は積極的に考える必要があるのです。
デパートはどうする
さて、そうした環境の中でデパートはどうあるべきでしょうか。モノを売るという点では、デパートは消費の王道を行く存在です。例えば、バブル期のように何でも消費によって回っているとも言える時代があったわけですが、今はモノが当り前に売れる時代ではありません。どうやって売るかということをただ追求することは消費のリスクを考えた時、決して目指すべきものではないということなのです。
来たるべき社会を見据え、どうせモノが売れないならばいっそのことモノを売ること以上に目に見えない非物質的なモノを売る―言葉にするとやや矛盾した表現ですが―資源の消費に繋がらない文化や思いやりの心を育む場を設けていく活動に舵を切るべきです。即ち、それはデパートがコミュニケーション事業を掲げていくことを意味します。顧客とのコミュニケーションを豊かにするサービスを提供することで、人にも地球にも優しい事業を進めていくことが出来るわけです。地域の事業者を幅広く受け入れ、地域の産物を販売する。地域の方々、家族、友達が集い、語らい、食事をし、地域のモノを買っていく。こうした取組みが輝く時代は、まさにデパートが率先して進めていくことで達成できるのです。
デパート新聞社 社主