デパート新聞 2023年8月 号外

地方百貨店 逆襲・カウンターアタック(CA)プロジェクトがはじまる

三重県津市 松菱百貨店外観

公益事業としてのデパートの役割を認識

 株式会社津松菱と株式会社デパート新聞社は、令和5年2月1日津松菱百貨店が三重県における公益的存在として、地域の生活・文化の発信地としての使命をまっとうするための包括的協力体制をとることに合意した。

 この合意に基づいて、今後松菱百貨店が進めていく戦略こそ地方百貨店逆襲(カウンターアタック〈CA〉)プロジェクトである。地方デパートが大都会のデパートとは異なる独自の理念を明確にして、将来に向けて地域のランドマークとしてその存在を強く打ち出していくことをCAプロジェクトの大方針として掲げ、今後松菱百貨店は運営を進めていく。

具体的な主要戦略

  1. 暮らしのサポーターの設置
  2. 最上階7階のフロアーで「つながるデパート カーニバル」を常設開催
  3. 生活・文化の無料相談所の開設
  4. 地域を廻る「つながるデパートカー」の導入

※内容の詳細については、次号以降に掲載予定

 企業が公益を意識して事業を行うことはもはや不可欠です。
地方デパートは、地域の人の文化・生活に重大な責任を持っています。この度の津松菱百貨店の「公益を掲げて事業に取り組む」という英断を弊社は全面的にサポートして参ります。    

デパート新聞社 社主 田中 潤

そごう・西武労働組合 寺岡泰博中央執行委員長インタビュー

寺岡委員長

 7月15日の日本経済新聞に「西武池袋の改装案提示」の記事が載った。続けてセブン社長、「労組に来週にも 雇用は原則維持 強調」と綴られている。その4日後の19日にそごう・西武労働組合の寺岡委員長に単独インタビューを実施した。日経新聞の記事にもある様に、寺岡委員長はスト権確立に向けた組合の組織活動で、多忙を極める中、本紙のために貴重な時間を割いて頂いた。

 背景を簡単に時系列で説明しよう。
7月3日そごう・西武労働組合( 以降は労組と呼ぶ) は、ストライキ権( 以降スト権)の確立に向けて約4000人に上る組合員に、その賛否を問う投票を行うと告知した。投票期間は7月9日から22日とし、集計を経て25日に結果を公表した。

 言うまでもないが、全組合員の過半数の賛成が得られれば、スト権が確立される。従って会社側との交渉の如何によってはストライキの実行が可能になった訳だ。7月14日に行われた日経のインタビューでも、寺岡委員長は「雇用について組合員を納得させられる材料があまりにも乏しい」と話している。寺岡氏は、本紙インタビューに際し、2022年11月にセブン&アイが米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループとそごう・西武の株式譲渡契約を結んで以降、セブンの井阪社長はそごう・西武労組とは、直接雇用関係にないことを理由に、団体交渉には応じていない、と話した。正に「何も聞いてない」状態だった訳だ。
さて前置きが長くなってしまった、今回の本題に入ろう。

概要(前号ふりかえり)

 労組は全国のそごう・西武10店舗で働く約5000人の従業員のうち、管理職などを除く約4000人を組合員とした組織。今回の池袋西武の売却計画を巡って、運営会社のそごう・西武と団体交渉を重ね、従業員の雇用や店舗計画の説明を求めてきたが具体的な説明はなかった。一方、親会社であるセブン&アイに団体交渉を求めても「直接の雇用関係がないので応じられない」と具体的な情報開示には至らなかった経緯がある。

 このため労組は説明を求めるため、ストで対抗することとし、7月9~22日に全員投票を実施。投票総数3833票のうち賛成が93.9%の3600票、反対が3.9%の153票だった(白票・無効票除く)。

7月19日そごう・西武労働組合 寺岡中央執行委員長インタビュー

日時:2023年7月19日13時
場所:そごう・西武本社事務所(西武百貨店池袋本店書籍館2F)
※以下、寺岡委員長の発言は太文字で示す

 筆者は先ず、そごう・西武売却で話題となっている「池袋西武百貨店の改装プラン」、具体的には本館北側1F~6Fへのヨドバシカメラ導入案に対する意見を求めた。寺岡委員長の答えは

「そう言った話は一切聞いていないのです。」

だった。
それどころか、セブン&アイの井阪社長とは

「1年半の間、この案件で公式に協議ができたと思える機会はありませんでした。」

とのことだった。

 寺岡委員長がそごう・西武売却について「聞いている」即ち知っている事は、以下2点。

  1. (セブン&アイ)の「ファンドの相手がフォートレスインベストメントである事。」
  2. 「そのビジネスパートナーがヨドバシHDである事。」

それだけだと言うのだ。

 念の為付け加えると、寺岡委員長の言う1年半というのは

「2022年11月11日のフォートレスへの株式売却発表ではなく、2022年1月31日のそごう・西武株式売却の先行報道から1年半」

ということだ。

主客転倒

 筆者を含め、大方のマスコミの論調は、ヨドバシカメラは、池袋西武の「どこに出店するのか」であった。しかしこの「見方」は寺岡委員長に説明をして貰い、「主客」が逆であることに気づかされた。
筆者が池袋西武の南館や書籍館の「残留」について質問した時だ。

 寺岡委員長曰く、

「逆でしょう。だって土地建物をヨドバシが『買う』わけだから、ヨドバシの中に西武が出店するコトになる。西武がヨドバシをテナントとして入れるのではなくて、ヨドバシが入居して、余ったところに西武が入ったら」

ということなのだと言う。

 寺岡委員長のセブン&アイに対する要望、意見として、彼は以下の3項目を挙げた。

  1. スタッフの雇用の維持。
  2. 百貨店事業の継続。
  3. それに伴う情報開示と事前協議

「基本的には、そごう・西武の売却、株式譲渡とか、株式の売買自体は会社経営の専権事項ですから、( 組合として) そこに対してとやかく言うつもりはないです。それは経営の専門家がやっていることですから。」

「僕らは労働組合なので、基本的には雇用を守るのが一丁目一番地じゃないですか。だけど、僕ら( 組合) も何を持って雇用を守るかと言ったら、基本、今の事業が継続されない限り、例えば、全く新しいコトに手を出して、その上で『雇用が守れるのか』と言ったらそれは判らないじゃないですか。」

「もちろん百貨店業界がこのままで良いとは思ってないですし、そごう・西武もこのままで良いとは思ってないです。だからそこは絶対変えなきゃいけないと思っています。」

「それでも、そもそも今の百貨店事業を全否定する、もしくはそごう・西武のブランドなり、看板が消える、こういった『売り方買い方』をされるのでれば、それは雇用だって守れないと言っているのです。」

「だとすれば、少なくとも今やっている(百貨店の)事業がベースにありながら、何か中身を少しずつ変えていく、ということ自体を否定はしませんけど、いきなりそれをひっくり返す様なことをやったら、それは普通に考えて、本当に雇用を守れますか。と思うのが、自然な話ではないかと、思っています。」

「井坂社長は『リストラではなく、そごう・西武を再成長させるため』と、おっしゃっていますが、それで雇用が守れますか、と僕ら組合は言い続けているのです。」

「僕らからすると、全国で売上3位の百貨店の売場を『無くしてしまって』これで再成長します、と言われて、誰が理解しますか、という話なのです。もし『再成長するのだ』と言うなら、その根拠を示して下さいと、1年半前から言っている訳です。」

キーパーソン

 続けて、そごう・西武の売却( 池袋西武の先行き) を巡る、「キーマン」についても話を伺った。

筆者が、地元行政である豊島区の故高野区長の「ヨドバシを全部は止められないとしても、池袋西武の百貨店文化を何とか残したい」という意志を示すことによって、マスコミを動かした部分はありますか。と問うた。

 寺岡委員長は

「間違いなく、高野区長が居なければ、(反対運動が) ここまでにはなってないと思います。只、実際に(行政側に)何か決裁権があるわけではないので『地域住民の声を聞けよ』という話で、高野さんは言っておられたと思います。」

という答えだった。

 最後に筆者から、高野区長もおっしゃっていた「百貨店の文化やブランド」の存続について、意見を求めた。

「百貨店のブランドがどうしたとか、(井阪社長は)あまりそういう発想はしない方だと思います。そう言った点では、どこまで行っても、(我々とは)相容れないと思います。」

「(百貨店)文化がどうしたとか、全く通じないのです。『それで坪効率はいくらなのか?』と。更に「百貨店みたいに無駄のある業態は必要ない。貴方たちはそんなことをやっているから廃(すた)れるのだ」というお考えだと思います。」

「だからと言って、僕がここで投げ出してもしょうがない。」

寺岡委員長はこう言って話を締めくくった。

 多忙でお疲れのところ、笑いも交え、率直に対応いただき、大変感謝していることを伝え、インタビューを終了した。

インタビュー後記

 この後も、デパート新聞では三重県津市の松菱百貨店でのカウンターアタックプロジェクト含め、引き続き「今後、百貨店はどうしていくべきなのか」といったテーマを考えて行きたいので、時間が許せば、またお話をお聞かせください、とお伝えし、辞去した。

 寺岡委員長はジョークを交えて、かなり「言いにくい」部分も率直にお話をして頂けた、という印象だ。しかし、労組の委員長として「1年半もの間、蚊帳の外に置かれた」という事実については、非常に憤りを感じていて、言葉の端々にセブン、というか井阪社長に対する「静かな怒り」を感じた。筆者もそれは当然のことだと思う。寺岡委員長はインタビュー終了後にも「井阪社長にとって、自分達は『うるさい蚊』程度にしか思っていないのでしょう。」と言う言葉があった。インタビュー中も委員長の虚しさ、やるせなさをひしひしと感じたのはそのためかもしれない。

 これ以降、8月上旬まで、関連のニュースが、ネットや経済紙だけでなく、大新聞やNHKで取り上げられる様になった。本紙の様な月2回発行では、とてもじゃないがこのニュースを追いきれない状況だ。
特に本紙は、例年8月は合併号となるため、急遽「号外」を発行した次第だ。
残念ながら紙面が尽きて来た。9月1号でも本紙は引き続き「そごう・西武」売却 のニュースを追いかける。次号「デパートのルネッサンスはどこにある?」の続報にご期待頂きたい。