英雄たちの経営力 第8回 蘇我馬子 その4

三位一体の国家経営(承前)

 話は戻るが、この完璧に思える三位一体の体制も、厩戸が飛鳥から北に十五キロメートルも離れた斑鳩(いかるが)宮に新たな都とも呼べるものを築き始めることで、不穏な空気が流れてくる。これは明らかに新たな権力基盤を築こうとする動きで、それが蘇我氏の権益を侵すものではないとしても、飛鳥の求心力を高めていこうとしていた馬子の方針に反するので、確執を生むのは当然だった。

 推古と厩戸の関係もぎくしゃくしていた。本来なら推古は数年で退位し、厩戸に王位を譲るべきだが、推古は実に三十六年にわたって王位に就いていた。

 その理由は分からないが、馬子が推古を退位させなかった可能性はある。つまり馬子は厩戸を王位に就けてしまうと、蘇我氏が存亡の危機に立たされると思っていたのかもしれない。

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伊東 潤