デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年7 月15 日号-第119 回「デパ地下進化論」から考える 後編

前号に引き続き6月13日のテレ朝の特番「タモリステーション:デパ地下進化論」放送に関連し、今や名実伴に百貨店の柱となった食品=デパ地下を取り上げる。
先ずは番組の内容をおさらいしておこう。「タモリステーション」デパ地下の魅力と歴史を深掘り。
タモリさん曰く「デパ地下はまさしく‶ 日本独自の食文化〟」
「タモリステーション」(テレビ朝日系)の最新作「誕生103年 デパ地下進化論」は6月13日(金)午後8時~9時48分に放送された。
日本に誕生して103年、これまで様々な食のトレンドを生み出してきたデパ地下。
百貨店業界全体の売上が減少している中、デパ地下はコロナ禍以降も堅調に推移。
ますますにぎわいを見せ、今や百貨店存続の鍵を握る存在と言われるまでになった。
概要

今回の「タモリステーション」は、そんなデパ地下の「進化と戦略」を番組が独自に徹底分析。なぜデパ地下は人々を惹きつけてやまないのか、その秘密に迫る。
スタジオには、俳優・木村佳乃さんのほか、業界紙「デパート新聞」編集長・山田悟氏、デパ地下の裏の裏まで知り尽くした出店アドバイザー・福永輝彦氏を迎え、デパ地下の魅力を掘り下げた。
タモリさんが、日本最大級の売上と面積を誇る( ※失礼ながら面積は最大級とは言えない) 伊勢丹新宿店のデパ地下に出向き、現場を取材。
先ずは開店前から行列が出来るデパ地下の玄関‶ 新宿三丁目駅入口″へ。現在、伊勢丹新宿店は地下の入口から入店する客が最も多く、開店と同時になだれ込む買い物客の勢いに「競歩のスタートみたいだね」とタモリさんも圧倒される。地下鉄の改札口から「直結」するデパ地下の強みが発揮されている。
有料試食
番組では、特別感を味わえる新たな集客戦略である「有料試食」に注目。
伊勢丹新宿店のデパ地下には高級食材・生ハムを有料で試食できるテイスティングカウンターがある。
食品売場の喧噪を感じながらじっくり味を確かめられる新たな形のイートインスペースに、タモリさんも「ここを目当てに来てもいいほど、居心地がいい」と絶賛。
タモリさんは、購買意欲を刺激するショーケースの高さや角度や照明の秘密に迫る。
更には総菜の量り売り、包装テクニックなどに自らチャレンジし、おもてなしの極意に触れる。
※伊勢丹では早くからテナントによる試食を禁止し、代わってイートインスペースでの有料試食のバラエティを拡充した経緯がある。
衛生上の配慮もあるだろうが、伊勢丹がテナント同士の試食合戦を嫌ったから、という面もあるのではないかと筆者は考えている。
もちろん爪楊枝に刺して店舗前の客に突き出す、という販促方法を「是」としなかった伊勢丹の判断は、品位を大事にするという側面からも評価出来る。
攻め盛り
ライバル店と厳しい戦いを繰り広げるデパ地下の人気総菜店を取材。
数々の名店がひしめき合い、日々しのぎを削るデパ地下の中で厳しい環境で勝つために、テナントではどんな試行錯誤行われているのか。

生き残りをかけて奮闘する総菜売場「柿安ダイニング」の1日に密着。
行き交う客の目線をチェックしながら呼び込みをかけ、巧みにコミュニケーションを取る店員の接客術にスタジオも感嘆。
こうした店ごとの切磋琢磨が、客の満足につながっていくことが浮き彫りになる。
商品を魅力的に見せる「攻め盛り」という驚きの盛り付けテクニックにも着目する。
※あくまで個人的意見だが、この「攻め盛り」の密着取材のくだり(取材VTR)は少々冗漫に感じた。こんな意見は多分筆者だけだろうが。
只、スタジオでタモリさんの横にディスプレイされた「攻め盛りピラミッド」は確かに壮観だった。
誕生物語
「デパ地下」の歴史にもスポットを当て、再現ドラマを駆使して「デパ地下誕生物語」を制作、その歴史を紐解いていく。
日本初のデパ地下といわれているのが、1922年(大正11年)に大阪の髙島屋長堀店に生まれた「常設髙島屋市場」。
ここは人々が夕飯の材料を買いに来るような庶民的な市場だった。
※食品を百貨店の地下で販売した「地下市場」であり、現在のデパ地下の原型とは言い難い。
なので、名店の味をそろえた現在のデパ地下の原型といわれているのが、1936年(昭和11年)、松坂屋名古屋店に誕生した「東西名物街」だ。
その名のとおり東京や大阪の食品の名だたる店が集結した、当時としては画期的な売場だったことが明らかになった。
番組ではこの東西名物街の誕生当時の写真を生成AIの最新技術でカラー化し、臨場感たっぷりにスタジオに再現。
今では考えられないほど立派な店構えの名店が百貨店の地下に立ち並び、当時の出店テナントの経営者がこの売場にかけた並々ならぬ意気込みを感じ取ることが出来る。
※番組の再現ドラマの中でも、松坂屋初代社長の伊藤次郎座衛門佑民(すけたみ)が日本橋の三越本店に対抗すべく、社長退任後に「東西名物街」をオープンさせた、とある。
※一説によると、1936年には日本橋三越に地下食品売場が存在したと いう文献もあるが、番組がスタジオに再現した「名店街」は名古屋松坂屋発祥であり、これをもって「デパ地下」の原点としている。デパ地下は「食品売場」ではなく「名店:テナント」ありきだという事が判る。
スタジオ試食
その東西名店街で販売されていた当時の洋菓子店「コロンバン」のスイーツ(シュークリーム)を特別に再現して貰い、スタジオに登場した。
果たして「デパ地下の原点」で販売されていたスイーツの驚きの特徴とは。ほかにも、時代の変化に即してヒット商品を生み、食のブームを牽引してきたデパ地下グルメ史を振り返る。
※スタジオでは実際にタモリさんがシュークリームを試食したのだが、当時まだ貴重品であった砂糖を現在の倍は使っていた、というシロモノだった。
「そこまで甘すぎる、という感じではないね」というタモリさんのリアル感想が印象に残った。
独自の進化

海外にもデパートはあるが、ここまでデパ地下が盛り上がっているのは日本ならでは。
デパ地下を多角的に深掘りしたタモリさんは「こんなにも様々な戦略が隠されていたとは、普段、デパ地下を歩いているときは分からなかったですね。包むにしても盛るにしてもコミュニケーションにしても、その根底にあるのは、日本人ならではの細やかさ。
総合的に見て、デパ地下はまさしく『日本独自の食文化』だと思いますね」と感心した。
そして「既に完成形のような気もしますが、きっとこれからもデパ地下は進化を続けるのでしょう。ぜひ注目していきたいですね」と番組を締めくくった。
※ここまでが実際に放送された内容だ。この後は元々採用されなかった企画や、惜しくもカットされてしまったエピソードをナイショで紹介したい。
ボツネタ
実は、筆者からは番組に対し、伊勢丹デパ地下の洋酒とワインのコーナーである「グランドカーヴ」の取材をお勧めした。 「グランドカーヴ」はソムリエも常駐し、国内外のワインと洋酒を約1900アイテム取り揃えた「洋酒の殿堂」である。
尚、日本酒や、焼酎、ビール(クラフトビアバー)は地下鉄丸ノ内線側に別コーナーがある。筆者としては「知ったかぶり」ついでに「グランドカーヴ」の奥に、知る人ぞ知る隠れ家のような「ヴィンテージセラー」の取材をお勧めしたのだが、あっさり却下されてしまった。
白状するが、筆者自身も恐れ多くて入ったことがない「不可侵」の領域を「見てみたい」という純粋な興味だったのだが。
却下された理由は、伊勢丹側が難色を示したのか、ワインと洋酒というジャンルを取り上げると、食品(総菜、パン、スイーツ)本体のフォーカスが「ボケる」という番組の判断かもしれない。
伊勢丹のホームページから紹介文を抜粋する。
ヴィンテージセラーの入口は、グランドカーヴの奥にあるガラス扉。「vintage cellar」というサインが掲げられています。
細い通路を抜けた先にある、足もとから天井近くまでぎっしりとワインが並べられた約40㎡の空間は圧巻のひと言。
ワイン好きならずとも訪れていただきたいヴィンテージセラーの魅力や活用方法を、グランドカーヴの専属ソムリエがご案内します。
こぼれ話1

進行も担当した木村佳乃さんが、デパ地下発祥グルメで、1990年当時大ブームとなったティラミスについて「父親から聞いたんですけど『ティラミス』って『私を持ち上げて!』という意味があるんですよね」と話し出した。
スタジオでは出演者もスタッフも「へぇ、そうなんですか」と曖昧な対応をしていた。
ところが、スタッフがVTRを流している間に調べたらしく。スタジオトークが始まる直前に「木村さんのティラミスの話、その通りでした!」というカンペをスケッチブックに書いて、我々に示した。
これには木村さんも大興奮し、タモリさんも「そうか、ティラミスにはそんな意味があったのか!」と笑顔で話し「どうやって(体を)持ち上げるのかね。」と続けたが、木村さんから「あの、気持ちを上げるんです。」という答えが返って、タモリさん含めスタジオ全体が笑いに包まれた。
用語解説:ティラミスは イタリア語 で「私を元気づけて」という意味の言葉で「Tiramisù」と表記します。
ティラミスは「tira( 引っぱって」+「mi( 私)」+「su( 上へ)」の3つの言葉を組み合わせた造語で、直訳すると「私を引き上げて」「私を上へ持ち上げて」という意味です。
意訳すれば、「私を元気づけて」「気分を明るくして」というニュアンスになります。
筆者的には「良く出来たエピソードトーク」だなと、タモリさんと木村さんのコンビネーションに感心して帰路についたのだが、放送ではそのシーンはごっそりカットされていた。いやホントにもったいないなぁ、と感じた。もしかして他のVTR素材が多すぎたのだろうか。
こぼれ話2
タモリさんが、確か京都にある百貨店のデパ地下で、うどんを土産として購入する際に、別売りの「つゆ」も一緒に買おうとしたら、「うどんにはつゆが一緒に入っているので」と販売スタッフ(のおばちゃん)から断られそうになり、「俺はこのつゆも欲しいんだ」と言って口論になった、というエピソードがあって。
筆者の拙つたない文章では、到底伝わらないので仕方ないが、タモリさんの話はとても面白かった。
筆者もカメラを前にして大笑いも出来ないので、笑いを押し殺すのに苦労した。
しかし、このエピソードも、あっさり全カットされてしまった。
「販売スタッフと客との言い合い」ネタは放送にそぐわないと、番組は判断したのかもしれない。
いやホントにもったいない。他のVTR素材が多すぎたのだろうか。もしかしてだが。
テレビと デパート(そして新聞)
たまたまテレビに出たから思うのだが、テレビ放送は雑誌やラジオ同様、すっかり「オールドメディア」の代表として、特に若者には「見向きもされない」媒体として定着してしまった感がある。
ここでは多様化したSNSの躍進について語る紙面はないが。
※今回は「タモリ」という特別なアイコンの隣に座る幸運(栄誉?)に恵まれたので、私自身は大満足だったし、知り合いから「見たよ!」の報告も多く受けたのだが・・・
だから、テレビに対する「そもそも見るべき番組がない」とか「サブスクに比べタイパが悪い」という意見を聞くと、まるでメディア業界の絶滅危惧種の様な扱いを受けており、我々世代は残念に感じてしまう。
※この比喩自体が失礼かもだが、生まれついての「テレビっ子」としては寂しい限りなのだ。
この項の冒頭に「雑誌やラジオ同様」と記したが、本当はテレビ以上に「新聞」こそがオールドメディアの代表である。
であるから、伴に業界のシーラカンスである「デパート」と「新聞」の組み合わせである「デパート新聞」は真の「ロートルコンビ」だと言える。
また、自虐に耽ふ けって紙面を無駄にしてしまった。大変申し訳ない。
只、その絶滅危惧種であるデパートの復興(ルネッサンス)や逆襲(カウンターアタック)を提示していくのが本紙のミッションであり、今回同じ危惧種仲間のテレビ番組に関われて良かったと思う。
テレビもデパートも20~30年前は、それぞれ業界の覇者であり王様であったが、今現在は残念ながら両者ともに若年層の支持を失っている、という共通点もある。
であれば、テレビとデパートの(そして新聞の)サバイバルが簡単ではないことは、誰の目にも明らかである。今後も可能な限り共闘していければ幸いだ。

デパート新聞編集長
