税と対峙する – 頭特別寄稿

平成17年01月01日号(第2287号)

デパート新聞社 社主
田中 潤

 デパート新聞読者の皆様、新年あけましておめでとうございます。デパートをはじめ小売店全般にわたって一層の厳しさを予測させられる年の幕明けとなりました。

 昨年来再三、行政の暴挙と訴えてきた定率減税廃止問題は、多くの国民の声がまさに全く無視されたところで縮小され、すでに実施されている配偶者特別控除の廃止、来年から適用になる老年者控除の廃止と合わせ、所得税は一気に増税への道を歩みはじめました。これは、バブル華やかなりし時以来の出来事です。

 定率減税の縮小は所得税を納めるすべての人に影響するだけに、今後の消費動向は極めて厳しいものになっていくものと思われます。これに加えて、論議が加速度的にすすんでいる消費税の税率切り上げも消費者不在のまま既成事実が固められていく感があります。

 景気の足取りについてはここ数年をとってみても政府が発表するような「回復」のイメージはその「雰囲気」すらないというのが多くの国民の実感でしょう。しかも、何の実感もないまま少しずつより悪い方へ遠ざかっていくような、ここ1~2か月の景気報道でもあります。「なぜ今、増税?」がほとんどの人にとっての偽らざる気持ちでしょう。

 国家財政の破綻危機―行政が増税を実施する際の常套句ですが、国民にとってはその時々の政治の失策の検証や、今現在の公務員の待遇の是正や人員の削減計画などが、全く具体化されていないにもかかわらず、国民だけに増税の矛先が向かう仕打ちを承服できようはずがありません。そこには身内に甘く、他人(本来国民は身内のはずですが)に厳しい行政の固定観念が見え隠れします。

 ところで、今度の税制改正ほどみるもののない改正はありませんでした。定率減税の削減の他、住宅借入金控除額の縮小やフリーターに対する住民税の捕捉など「とれるところから獲る」、いいかえれば多くの人が無関心な減税制度は取り除いていくという弱者いじめの動きも目立ちます。

 これは前年の老年者控除の廃止や公的年金の控除額の縮小など、高齢者への課税強化と通じるものがあります。今回の改正の一つで高齢者への課税強化の極めつけは、所得の合計が125万円以下の人への個人住民税の非課税措置の廃止です。3年間に分けて、段階的に減らしていくとのことですが、全廃する3年後には、今まで税金が0だった人の所得が最大で92万円となり、税額が4万6000円発生することになります。増税の戦略は極めて周到にすすめられているのです。

  住民税額が増えることで国民健康保険料が大幅に増加することも、間違いなく今後起きてくる深刻事態なのですが、今の時点でも相変わらず当り前の情報としてこのことが明らかにされないのが不思議です。しかし、試算でみると先に述べた住民税が非課税だった人の保険料は、10数万円増加することにもなるようです。

  増税一本槍の行政の方針は、税金負担だけではないさまざまな公的負担を増やします。彼らは国民の消費経済の行方について一切目をつぶってしまったのでしょうか。 実際に、増税・社会負担増加のイメージは確実に国民の間に浸透しつつあり、11月・12月の消費者売上は急激に数字を落としています。年収1000万円の夫婦世帯で試算される定率減税撤廃による年間約10万円の増税は、これから毎年続くことを考えるとき、大変な負担イメージになります。10万円はテレビや家具などさまざまな耐久消費財が毎年購入できる予算です。この予算がなくなれば、当然買い控えはおきるでしょう。

 家庭にとっては年収1000万円の中の1%としての10万円ではないのです。その家庭ごとの可処分所得に対する10万円の負担は極めて大きいのです。こうした痛みも、そろりと給料や賞与が上昇しはじめた行政の人達にはまるで伝わらないのでしょうか。考えれば疑問と不満は募るばかりです。弊社はこれらの問題を今年もさまざまな観点から積極的に追っていく所存です。

  どうか本年もよろしくお願い申し上げます。