デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年6月15日号-第117回インバウンドと格差社会

地方デパートの逆襲CAプロジェクトの現在位置
地方の百貨店が存続するためには、当然、一極集中する都市部の百貨店とは異なる戦略が求められる。
前号でお伝えしたように「インバウンドバブル」は、都心の大手デパートと、高級路線にシフトした一部の施設や店舗だけがその恩恵を受けることは明白だ。
日本という国の中には数多くの地方都市が存在し、そしてその地元百貨店の閉店連鎖には一向に歯止めがかからない。
インバウンド需要に頼れない環境では、地域密着型のビジネスモデルが存続の鍵になるはずだ。デパート新聞では具体的な活動拠点として、三重県津市の老舗デパート「松菱」を舞台に選び、実証実験をスタートさせている。
CAプロジェクト
デパート新聞の田中社主は、これを「地方デパート逆襲プロジェクト」と命名した。因みに逆襲=カウンターアタックなので、略してCAプロジェクトと呼んでいる。
僭越ながら、先ずはその趣旨を説明しよう。
本誌1月15日号一面の田中社主による「松菱百貨店でプロジェクトスタート」を再掲する。
『CAプロジェクトは、地方デパートがそのデパートだけの魅力、つまりオリジナリティをもった店づくりをしていこうという戦略であり、目指すところは地域のランドマークとしてそこに住む方々のコミュニケーションの場になっていこうというものです。
デパートの利益だけを優先させるのではなく顧客に対して思いやりを持って接し、デパートを訪れた誰にでも、小さな幸せを体感してもらうことを目標としています。
こうした公益事業としての取組みが実現すれば、必ずデパートは不特定多数のか方々と相扶(あいたす)ける関係となり、将来も地域に不可欠な存在として存続していくことになるはずです。』
本誌一面で6月1日号まで10回に亘り、その具体的な進行状況と成果を報告している。※尚、CAプロジェクトの取組みは、今秋書籍化して刊行予定。
重点施策
以下に、筆者がCAに必要な施策として、五つの項目を掲げる。
- 地域の文化拠点
- 高齢者サービス
- 地元企業との連携
- コミュニティ連携
- デジタル活用とEC
そして、項目の末尾に、松菱百貨店でのCAプロジェクトとしての具体的な動きを記した。
1.地域の文化(交流)拠点
地方百貨店は単なる商業施設ではなく、地域の文化や歴史を発信する拠点としての価値を高めることができる。
例えば、地元の工芸品や伝統技術に加え、舞踏などの芸能や祭りを紹介する展示スペースを設け、地域の特産品を活かしたイベントを開催。加えて、他地域との文化交流により、地域住民にとって欠かせない存在を目指す。
実例



昨年12月4日、松菱4回の紳士服売り場の一画に、コミュニケーション書店「食べる本屋さん」がオープンした。
地方デパート逆襲(カウンターアタック、CA)プロジェクトの中核的戦略でもあるので、いささか長くなるが、12月15日号の田中社主の記事を引用する。因みに田中社主は「食べる本屋さん」の店主でもある。
『「食べる本屋さん」は人間関係が希薄になっていく現代社会で、地域の文化発信の拠点であるデパートが、書店を通じでコミュニティを作っていこうという取り組みである。本屋さんなので当然本を販売するのだが,その在り様は既存の書店とは全く異なる。
「食べる本屋さん」では全国の小さな出版社から自社の自慢の本を何冊か選定してもらう。そこに推しメッセージを記入したポップカードを添えて出品をしてもらっている。すべての本は面陳(本の表紙が見えるように)ディスプレイして販売するという贅沢な空間を作っている。
書店の減少・取次店の合理化などで、出版社が作った本を全国に届けるというハードルが年々高くなっている。と言ってインターネット販売では本の温もりが伝わらない。こういった課題を克服し、読者と出版社の出会いの場を作り、新たな形で出版社の販路を拡げていこうという試みでもある』
※以上、引用終わり
2.高齢者向けサービス
地方では高齢化が進んでいるため、シニア向けサービスを充実させ、顧客とのコミュニケーションを深めることが大事だ。
買い物代行サービスや、健康や相続相談コーナーの設置、シニア向けの交流イベントを開催することで、地域の高齢者にとって「行きたくなる場所」を作るのだ。
実例

松菱4階にて、外商顧客向けに一般社団法人の協力により「相続のお悩み無料相談会」を毎月定例開催している。
企画段階

移動デパート「マッピー号」を使い、来店が困難な顧客を対象とした「食べる本屋さん」の書籍販売や「買取り出張サービス」を検討中。
※マッピー号のマッピーは、松菱の公式マスコットキャラクター「マッピーちゃん」から拝借して命名した。松菱ではクレジットカードやポイントもマッピーの名を冠している。因みにマッピーちゃんのLINEスタンプもある。16種120円だ。
3.地元企業との連携
地方の百貨店は、地元の中小企業や農家と連携し、地域限定の商品やサービスを提供することで独自性を強化できる。例えば地元の食材を使ったレストランや、地域ブランドのファッション・雑貨を販売することで、都市部の百貨店とは異なる魅力を打ち出す。
企画段階
松菱7階のカフェで津インターファームのイチゴ「あまつおとめ」を使ったパフェを提供したいという試み。
※残念ながらイチゴシーズンに間に合わず、来シーズンに持ち越しとなったが、ブランドイチゴ「あまつおとめ」は2025年2月に開かれた第三回全国いちご選手権で金賞を受賞している。
朝日新聞によると、同選手権は、日本野菜ソムリエ協会が主催し、今回は全国から、前回の2倍以上となる375品が出品された、という。
4.地域コミュニティとの連携
百貨店を単なる買い物の場ではなく、地域住民が集まるコミュニティスペースとして活用するのも一つの方法。
例えば、地元の学校やワークショップを開催したり、地域のイベントの拠点として活用することで、地域に根付いた存在になれる。
地域の百貨店は、都市部の百貨店とは異なる価値を提供することで、その存続可能性を高める。
実例

黒板本棚との記念撮影 店主(左から4人目)、
井戸本先生(左から5人目)、白鳳高生(左側3人)、津高生(右側3人)
松菱4F「食べる本屋さん」で地元津高校や伊賀白鷗高校とのビブリオバトルイベントを開催し、パブリシティを多数獲得。我田引水で恐縮だが、イベントの詳細は本誌4月1日号のコミュニケーション書店「食べる本屋さん」津高生による「ビブリオバトル:本の交流会」を開催 と題した。筆者の記事を参照いただきたい。
企画段階
5月中旬に松菱6階催事場の「ふるさと三重物産展」に出店した相可高校調理クラブの「まごの店」の弁当は、予約が即完売する人気だ。
将来的には松菱7Fに「お好み食堂」を開き、相可高校の「まごの店」に参加していただきたいと考えている。
5.デジタル活用とEC展開
地方の百貨店は、オンライン販売を強化することで、地域外の顧客にもアプローチできる。例えば、地元の特産品を全国に販売するEC サイトを運営したり、ライブコマースを活用して商品の魅力を発信することで、売上げの新たな柱を作ることが可能だ。
実例

「つながるデパートカーニバル」の名称で、ガチャを起点に、インフルエンサーによる、インスタやXなどSNS を媒介して、その魅力を発信している。
松菱7F「ガチャガチャランド」で、中京、関西圏からの、まったく新たな来店モチベーション作りに成果があった。
産学連携
また、CAプロジェクトでは、地域の活性化のためには産学連携が欠かせないという立場から、三重大学の大学院イノベーション研究学科と協議を重ね、松菱でアントレプレナーの精神の活性化を図る取り組などを検討している。
これは本誌の標榜する「公益視点を持つ人を育てる」という観点とも合致している。
但し、筆者が驚き、そして期待しているのは大学生でなく三重県の高校生たちだ。津高校や伊賀白鷗高校、そして相可高校の先生方と生徒達だ。
読書、工芸、料理と、各々ジャンルは異なるものの、皆「大人顔負け」の(いや、この表現自体が既に年長者の上から目線でお恥ずかしいが)パフォーマンスを見せてくれた。
もちろん現役の大人である先生方のご指導の賜物であるのは間違いない。そんな生徒と先生を抱えた、三重県の潜在パワーを感じ、筆者は、眩しさと、頼もしさを感じた次第だ。
多様性の時代に「若者だけをもてはやす」様で恐縮ではあるが「街の活性化」には若年層の存在はやはり重要だ、と筆者は思っている。都市部やその近郊だけでなく、三重県津市であっても同様だ。
理由
過疎化により地方都市は寂れていき、商店街はシャッター通りとなり、当然の様に百貨店は街と共に衰退していく。それは化により地方都市は寂れていき、商店街はシャッター通りとなり、当然の様に百貨店は街と共に衰退していく。それは本コラムでも伝え続けている。
しかし、地方には若者はいないのではなく、商店街にも、ましてや百貨店にも、足を向けないのだ。それは百貨店に行く「理由」がないからだ。
だからこそ、本紙が松菱7階でスタートした「選べるガチャガチャランド」は重要なのだ。
お客様は津市や、四日市、松坂だけでなく、名古屋や大阪といった遠隔地から近鉄特急に乗って来てくれるからだ。それも、松菱の広告チラシからでなく津市や、四日市、松坂だけでなく、名古屋や大阪といった遠隔地から近鉄特急に乗って来てくれるからだ。それも、松菱のチラシ広告ではなく、SNSで自ら情報を収集して。
デパートは従来型の商売を続け、年配の主婦層の集客にだけ専心していても逆襲も捲土重来も叶わないのだ。
たかがカプセルトイというなかれ。
今まで松菱を選択肢に入れていなかった若者も、子連れファミリーも、理由があれば来店してくれるのだ。欲しいガチャがあれば、遠くからでも電車、バスを乗り継いで来てくれるのだ。
もちろんこの7階からのシャワー効果を生かせるかどうか、中下層階の従来型MDを変えられるかどうかは、松菱次第である。
本誌は第二、第三の松菱を探して、新たな地同デパートとの取り組みを、模索している。ご興味のある、地方デパートは本誌まで連絡して欲しい。
三重県津市での小さな流れが、やがて大河となるのかは、筆者にもまだわからないが。

デパート新聞編集長