百貨店物産展へ行ってみよう!!

百貨店イベントの代名詞となった「物産展」

毎月必ずと行ってよいほどどこかのデパートで開催されている物産展は、百貨店におけるイベントの大きな柱となっています。集客力が高く売上高も期待できるので主催者側としては、常時開催で注目を集めたいところです。

歴史のある物産展ですが、人気のイベントとして飽きられることがないのは、その時代のニーズに合わせた工夫がなされ、新しい企画もたびたび登場して新鮮さを失わないことが要因ではないでしょうか。

物産展に訪れる人は、予め開催情報を得て来店される方が多いと思いますが、たまたまデパートに来たときに物産展が開催されていると、今日はラッキーだったとの思いから、つい立ち寄りたくなってしまう魅力があります。

日替わりの限定品などは開店と同時に売り切れてしまうことから、チラシで情報を確認したり、気になった商品を購入するために何度か物産展に訪れる方も少なくないようです。下調べなしで来店すると、売り切れの表示の下の写真でしか知らない、実際に目にすることがない商品をたびたび見かけることもあります。それもまた、別のものを探そうという購買意欲に繋がります。活気で賑わう会場のなかをくまなく見て回るのも楽しい時間です。

百貨店初の物産展

ところで、百貨店の物産展は、いつ頃始まったのでしょう。

渋沢栄一伝記資料によると

■1917年(大正6年)日本橋三越にて「東北6県名産品陳列会」が開催されたとあります。

3款 東北振興会

大正6年4月30日(1917年)

是年五月一日ヨリ、日本橋三越呉服店ニ於テ、当会主催ノ東北六県名産品陳列会開催セラレタルガ、之ニ先立チ、是日当会、朝野ノ名士百余名ヲ右会場ニ招待ス。栄一、会頭トシテ挨拶ヲ述ブ。

デジタル版『渋沢栄一伝記資料』第56巻 p.195-196(DK560057k)

竜門雑誌 第三四八号・第八九―九〇頁 大正六年五月 ○東北六県名産品陳列会

竜門雑誌  第三四八号・第八九―九〇頁 大正六年五月
○東北六県名産品陳列会 青淵先生が其の設立以来熱心に尽力せらるる東北振興会は、今回同会主催の下に五月一日より向ふ十五日間三越呉服店内に於て、表記の如き陳列会を開催する事となり、四月三十日朝野の名士百余名を招待して之が批評を乞へり、品目凡そ五千種、其数約十万点、東北物産の殆んど総てを網羅して珍貴なるもの尠からず早くも買約済となれるもの続々とありしに見ても其盛況想ふべし。当日青淵先生の挨拶左の如くなりしと。
  先年我々有志相謀り、東北振興会を起し、東北六県に於ける産業の振興を助長せんとしたるは諸君の知らるゝ所なるが、爾後交通の完備、港湾改修、物産の開発等に関し種々調査する所ありしも、未だ効果の十分なるを得ざりしが、今回其一端として東北六県の物産を都会人士に紹介し、之が奨励を計らんとの議あり、就中本会に最も熱心努力せらるゝ益田孝氏斯の説を提唱せられ、幸に当三越呉服店は右物産陳列に就き十分なる設備と経験とを有せらるゝを以て、同氏より此事を交渉せられたるに、同店も快諾を与へられ、愈々明一日より東北六県名産陳列会開催の運びとなりたり、而かも今日大臣閣下を始め諸君多数の来臨を忝うせるは振興会の深く感謝する所東北六県の物産を都会人士に紹介し、其批評を受くれば、其発展上の効果多大なるべきは言を俟たず、更に一層の援助あらんことを希望す云々。

デジタル版『渋沢栄一伝記資料』第56巻 p.195-196(DK560057k)

東北振興会とは、1913年(大正2年)に北海道や東北を襲った大冷害をきっかけに当時の内務大臣原敬が働きかけ、東北六県の産業全般にわたり福祉増進を図る目的で、京浜地方の実業家有志により、渋沢栄一を会長として1913(大正2)年に設立された組織です。

※東北振興会は1927(昭和2)年3月に解散しましたが、同年6月、今度は東北の有志により新たに「東北振興会」が設立されました。

東北の復興と発展にかけた思いが伝わってくる資料です。

物産展の歩み

翌年の1918年(大正7年)には名古屋松坂屋でも物産展が開催されました。

1951年(昭和26年)には、高島屋大阪店・福岡岩田屋にて、北海道主催による日本初の「北海道物産展」が開催されました。当時の様子や物産展の歩みが高島屋の資料に残されています。

★「70年を辿る、高島屋大北海道展アーカイブ」より

 開催当初には屋上で、実際に乳搾り体験ができるイベントを開催

・1979年(昭和54年)職人による民芸品「木彫りの熊」の実演販売を開催

・1985年(昭和60年)キタキツネに会えるイベント開催

・1988年(昭和63年)ヤマト運輸の定温物流ネットワーク完成により、全国でクール宅急便を開始。物産展でも鮮度の良い海産、生菓子の販売が可能となりました。また、イートインで握りたての寿司が提供できるようになリました。(かつては高島屋のバイヤーが北海道へ食材を直接買い付けに行き、貨物列車で直送していたそうです。)

 ・1990年(平成2年)流氷の展示、羊毛刈りの実演

こうしてみると、随分と大掛かりなものが企画されています。動物を物産展に参加させることは、制限が多くなった現在では実現するのは難しいところですが、食品だけでなく観光産業の発展にも大いに力を入れていたことが伝わってきます。

また、物産展の開催が、地方の振興と百貨店の集客・売上に貢献していたことが伺われ 各自治体にとっても、百貨店にとっても大事なイベントでありここまで続いている所以だと思われます。

交通事情の発展により、現在では少しの時間で北海道を始め各地への旅行も可能となりましたが、それでも物産展は魅力的な企画で、近場で旅行気分を楽しめるイベントであることには変わらないのです。

テーマ型物産展の登場

物産展といえば、各地の観光や美味しい名産品を紹介・販売する地域に特化した物産展が中心となっていますが、最近では一つの魅力的なテーマに沿った物産展も登場しています。こちらも食品関係が中心となっていますが、和菓子・洋菓子・パンなどに特化した物産展です。

いわゆるテーマ型といわれる物産展の一例です。

  • 「第77回 全国銘菓展」3月1日(水)~3月6日(月)日本橋三越にて
  • 「第4回あんこ展~お茶と器と~」4月12日(水)~4月17日(月) 山形屋鹿児島店にて  
  • 「ご当地パンフェス」4月26日(水) → 5月8日(月)小田急町田店店にて開催

地域との協賛で新しい商品の掘り起こしが行われ、消費屋にとっては更に購買意欲をかきたてられることになります。それと同時に新しい視点での観光誘致に効果が期待できます。

これからの物産

常に新しいものを求められる現在では、物産展も進化が求められてきます。

その中で、コロナの流行により物産展をオンラインで体験できたり、家にいながらショッピングができるようになり、百貨店を利用しなかった層(10代、20代、ファミリー層 )が新たな顧客となったことが希望を感じさせてくれます。

今後はその新しい顧客が百貨店に足を運んでもらえるような、どのような未来型の物産展が開催されるのかを楽しみに待ちたいと思います。

参考:百貨店の物産展の歴史と可能性(2022年9月7日)

70年を辿る、高島屋大北海道展アーカイブ