緊急事態宣言に対する百貨店の対応 – 2020年4月9日号

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月7日夕刻、安倍晋三首相が非常事態宣言を発表した。政府の東京、埼玉、千葉、神奈川の首都圏と大阪、兵庫、福岡を加えた7都府県を対象にした緊急事態宣言を受け、百貨店大手各社は8日から営業自粛=一斉休業に踏み切った。百貨店以外の大手商業施設もルミネ、パルコはじめ各社とも4月8日から当面の間(5月6日を目途に、という意味だと思われるが)休業に突入した。各都府県の知事からの「要請」を踏まえた素早い決断であったと言える。

 ここで本紙が注目したのは、大手百貨店の間で食品売り場を営業するかどうかで対応が分かれたまま4月8日を迎えた点だ。国と東京都で営業自粛要請の業種に関する方針が割れる中、期間を「当面の間」に設定するなど対応への苦慮が見て取れる。

 8日からの該当店舗の全面休業を早々に決めたのは三越伊勢丹ホールディングスと松屋だ。三越伊勢丹HDは伊勢丹新宿本店や三越日本橋本店など首都圏6店と小型店に加え、専門のECサイトを除きオンラインショップも休止とした。 もう一方の松屋も銀座本店と浅草店について、食品を含め全面休業とした。

 Jフロントリテイリングの大丸松坂屋百貨店は大丸心斎橋店や東京店、松坂屋上野店、博多大丸など7店を全面休業とし、郊外の大丸須磨店と松坂屋高槻店は食品売場のみ時短営業するとした。阪急阪神百貨店も主要4店舗を全面休業とする一方、その他の店舗では食品等の営業を継続する。大丸松坂屋と同様、エリアごとに是々非々の対応となった。

 一方、食品売場の営業を継続するのは高島屋とそごう・西武だ。高島屋は運営する百貨店と玉川髙島屋S・C等の専門店12店舗で、またそごう・西武も西武池袋本店やそごう横浜店など9店舗で、それぞれ食品売場のみの時短営業を決めた。
百貨店関係者によれば、経済産業省から食品売場の営業継続要請が出たのは緊急事態宣言の発令が正式決定した7日のことである。政府からの急な要請であり、かつ小池都知事からは完全休業を求められ、現場はかなり混乱したと思われる。

 イオンや西友、イトーヨーカドー、更に地元の食品スーパーが営業していれば、嗜好品、贅沢品を扱うデパートはまさに不要不急の代表選手である。政府や自治体が、あえて百貨店を「緊急事態」に休業させる事が、スケープゴート的なみせしめ効果を生むのでは・・という考えは被害妄想の陰謀論に過ぎるだろうか。

 厚生労働省は2020年4月1日から「雇用調整助成金」の特例措置を拡大し新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受けた事業者に対し、休業手当の一部を補償することで、従業員の雇用継続を狙う。このことから一部評論家からは、百貨店が経産省の要請に応じて食品売場を営業すれば、一斉休業による雇用調整助成金が受けられない可能性もある、としている。

 西村経済再生担当大臣と小池都知事の理美容やホームセンターへの休業要請をめぐる論争もあり、百貨店の担当者は「感染の収束が第一ではあるが、自治体の意向を無視するわけにはいかない」という板挟みが続いている。

 三越伊勢丹グループが食品フロアも含めた全面休業に踏み切った背景には、4 月 3 日に三越恵比寿店従業員が、翌 4 日には伊勢丹浦和店の従業員が相次いで新型コロナウイルスへの感染が判明したことも、大きく影響しているのかもしれない。そこには忖度とか同調圧力といった日本国固有の強い「要請」がはたらいているのかもしれない。

 デパートの「存在意義」を問われる「正念場」となった今回の休業判断。勝者と敗者を分けるのはウイルスではなく顧客である。いや、ウイルスとの闘いに勝者はいない。但し、生き残った者こそが一時の勝者であるとは言えるのかもしれない。

散る桜 残る桜も 散る桜