デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年01月15 日号-第130回 池袋西武の初売りに行ってきた。脱デパートは非デパートなのか

2 0 2 6 年の新春早々、西武百貨店池袋本店の初売りに行ってきた。池袋西武は昨年同様1月2日が初売りのスタートだ。今年はそごう・西武全10店舗が1月2日初売りで足並みを揃えた。因みに昨年の正月は西武(池袋店、渋谷店、秋田店)とそごう広島店が元旦を休業したものの、そごう横浜店、そごう千葉店など6店舗が、まだ元旦営業をしていたのだ。

2026年の正月を迎え、(新宿伊勢丹も含め)大手百貨店の元日休業が、やっと定着してきた。社会全体で働き手の不足感が強まるなか、初売りの開始日を遅らせることで従業員が休める環境を整える動きが百貨店をはじめ小売業界全体に広がっている。
働き方改革が叫ばれて久しいが、大手百貨店各店が「売上最優先」のスタンスから脱却する姿勢を見せることで、社会課題の解決に寄与することは言うまでもない。
松屋銀座そして
因みに、松屋銀座はもう一歩先行している。2024年からは1月2日を休業日にし、正月の初売りを3日に後ろ倒しにしたのだ。正月の休日増加によって従業員のワークライフバランスの改善を見込んでいるのだ。
時短により売場の従業員の密度を高め、顧客との接触時間を増やし、結果的にサービス向上につなげる目論みがあるからだ。
結果として、大手百貨店4社のうち髙島屋、大丸松坂屋、阪急阪神百貨店ともに年明けは1月2日まで休み、1月3日が初売りというスタイルが主流になってきた。
どこかの総理大臣が、就任早々「働いて」を5回連呼していても、小売りの世界でのワークライフバランスは粛々と進行している様だ。もちろん筆者は首相が頑張って働くことに異論はない、健康には気を付けて欲しいと望むだけだ。話を池袋西武に戻そう。
筆者は昨年末に「2026年初売りのご案内」というメールをそごう・西武の広報部から貰った。以下参照する。
そごう・西武は全10店舗で1月2日(金)より初売りを行います。
「2026年には、長らく改装工事を行っていた西武池袋本店もリニューアルの完成を迎えます。各店では、干支の午にちなみお客さまと共に「飛躍」、「前進」の一年となることを願い、太鼓や獅子舞、福袋の販売などで一年の始まりを盛り上げます。ぜひ、賑わいをご取材いただきたくご案内申し上げます。」
振り返れば、2025年は池袋西武にとって復活の年であった。デパート新聞本コラム「デパートのルネッサンスはどこにある?」のタイトルを地で行く様な「復活、復興」の年であった訳だ。
そのイケセイが年明けの段階では未完成ではあるものの、「明けた正月に、お客様に新しい池袋西武を見て貰いたい」という気持ちが、案内文の「飛躍、前進」の文字から滲み出て来るのだ。いや、筆者にはそう感じられるのだ。
概況については、以下を参照願いたい
そごう・西武初売り初日概況(西武池袋本店)
※そごう・西武 広報より
開店時刻10時の予定も、並び列が伸びたため、15分繰り上げ午前9時45分に開店。
売上実績: 前年比130%(前年1月2日対比)
来店客数 :前年比230%(前年1月2日対比)
福袋品揃え: 約8000個(食品、化粧品)
※1月2日、3日に販売
1月2日販売実績:目標比105%
食品福袋:目標比110%
化粧品福袋:目標比100%
西武池袋本店寺岡店長の初売りについてのコメント
「リニューアル後初の初売りは、開店前から多くのお客さまにお並びいただき、デパチカの人気菓子や惣菜の福袋を求めるお客さま、コスメやラグジュアリーブランドで新春のお買い物を楽しまれるお客さまで終日賑わいました。
今年はいよいよ西武池袋本店が改装を終えグランドオープンいたします。地域のお客様はもちろん、さらに広域のお客さまにもお喜び頂けるよう、午年にちなみ勢いよく駆け抜ける年にしてまいります。」
西武池袋本店 店長 寺岡 泰博
広報部:干支の午にちなみお客さまと共に「飛躍」、「前進」の一年となることを願い
寺岡店長:午年にちなみ勢いよく駆け抜ける年にしてまいります何かのめぐり合わせかもしれないが、今年が午(馬)年で良かったと思う。巳(蛇)年や未(羊)年だったら表現が難しいし、そもそも干支には触れないだろうが。
セールとライバル


一つ問題提起をしよう。池袋西武は「セール」をしないのだ。そごう・西武のホームページを確認すると
新春クリアランスセール 本日スタート「西武冬市・そごう冬市」
■1月12日(月・祝)まで
■各店=対象売場、e. デパート
※西武池袋本店では開催いたしません。
と記してある。つまり、リニューアルした池袋西武はバーゲンを実施しない、ということなのだ。
お隣の池袋パルコは恒例の「グランバザール」を1月2日にスタートさせ、多くの来店客で賑わっていた。
因みに池袋西口のライバル東武百貨店はウィンターセールと東武の初売福袋を1月3日からスターとさせた。開店はいつもより30分早い9時半だ。
東武百貨店のメインイベントは、1月4日( 日)午前11時からお笑い芸人「クールポコ。」による「2026新春初笑い!」のステージを8F屋上スカイデッキ広場で行う。その後は、埼玉県立松山女子高校書道部による書道パフォーマンス&書道体験会だ。
東武百貨店はインクルージョンとか富裕層シフトとかではなく、「みんなのデパート」を淡々と盛り上げているのだ。地場の百貨店によるデパートらしい「初売り」風景だ。
西武と東武でどちらが正しいという事ではない。東武は東武らしく王道のデパート像をみせてくれた。そして伝統は悪ではないのだ。もちろんセールも。
※但し、小売り関係者の中には「バーゲンセールは必要悪」と言う方も少なからず居る。
高級テナントビル



対する西武の目玉は「グランドリニューアル」だ。五月雨式に3F化粧品(7月)、B1F/B2Fのデパ地下(9月)と進み、2025年末までに、一部の区画を残してB2Fから6Fまでの8フロアがリニューアルオープンしている。
残すは7F、8Fの2フロアのみだ。別館の三省堂(書籍)と無印良品を除き、8割方その全貌が見えて来た。



新年を寿(ことほ)ぎ、おめでたい話題でスタートした本稿であるが、1月2日に筆者は実際に新生(実際には改装中の)池袋西武の店内を見て回った。
既に取材済みの3Fコスメとデパ地下は省略し2,4,5,6階をくまなく巡った。
照明も内装もエスカレーターまで新調されており、筆者は正直リニューアルというよりは、まったく新しいイケセイのニューオープンなのだな、と受け止めた。但し、店内を巡っていて、ちょっとした違和感を覚えたのも事実だ。
一つ目は店内の様子である。すべての区画が一つのショップであり、ハイブランドの店舗が配置されているのだ。まるで渋谷パルコかNEWoMan、いやスクランブルスクエアかGINZASIXの様に、と言った方がしっくり来る。要するにテナントビルだ。
ブランド至上主義
※西武池袋本店 最新のフロアガイド
FLOOR INFORMATION

池袋西武は、坪当たり効率の良いブランドに、上から順に面積を割り当て、究極の富裕層シフトに舵を切ったのだ。インクルージョンの名の元に、多様な時代性に合わせて、「婦人と紳士」両方のカテゴリーを同一のショップ内で展開するのだ。コンセプト通り。
その代わり無くなったモノもあるのだ。
一体何が無いのか。そうなのだ、この新しい池袋西武には「平場」が存在しないのだ。デパ地下は別にして、デパート感がないのは、百貨店の平場がないからだと気づいた。
仕切られていない空間である「平場(ひ ら ば)」が筆者のイメージするデパートらしさの正体なのだと。
試しに、新宿伊勢丹に行ってみれば判る。1Fの用品売場に行けば、財布でも帽子でも傘でもベルトでも、欲しいアイテムがあれば、どんなブランドからでも選べる。靴が欲しければ、ブーツでもスニーカーでもサンダルでも2Fに行けば良いのだ。それが百貨店の平場である。
それが池袋西武では、靴を選ぶ前に、先にブランドを選ばなくてはならないのだ。
食品はまだ良い、総菜ならB2F、スイーツならB1Fで探せば何とかなる。すこしの間ショーケースを巡れば、お目当ての食品にたどり着くだろう。
※尚、3Fコスメと1Fフレグランス、そして5Fのジュエリー&ウォッチもフロアごとにアイテムに特化している事は申し添えておく。ショップも比較的小割だし。
脱デパートは非デパートなのか
何より平場がない事は人件費の削減にも直結する。自社の社員を配置する必要がないからだ。黙っていてもテナントが賃料を払ってくれる。社員教育に時間と労力(そしてお金)を割く必要もないのだ。これでいいのだ。何の文句があるのだ。
だが、それは果たしてデパートなのだろうか?池袋西武は百貨店なのだろうか?素朴な疑問が頭をかすめるのだ。銀座松坂屋がGINZASIXに替わった様に、渋谷東急本店跡もLVMHの力を借りてそうなるであろう様に、脱百貨店は「デパートではなくなってしまう事」なのであろうか?
用語解説:LVMH 1987年に、ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシー両社が合併して誕生したコングロマリット。現在はフランスやイタリア、スペインなどのヨーロッパを中心に75に及ぶラグジュアリーブランドを傘下に持ち、フランスはパリを本拠地とするラグジュアリー産業における多国籍持株会社である。
問題提起をしておいて、逃げる様で恐縮だが、今現在筆者の手元には答えはない。それを決めるのは顧客であろう。
「私は自分のお気に入りのブランドは決まっているので、せいぜいショップを2~3件回れSALE 西武冬市パルコで開催されたグランバザールば欲しいモノは手に入るから、別に新しい池袋西武で困ることはないわ。」という買物上手やファッショニスタばかりであれば良いのだが・・・
池袋西武の「非デパート感」の話をしていて気づいたのだが、筆者のイメージするデパートが「平場とバーゲン」とは、恐ろしく狭量であり旧態依然のデパート像である。正直お恥ずかしい限りだ。自身の(知識の)古さを実感した正月であった。
さて、亡くなった高野前豊島区長がセブン&アイやヨドバシカメラから守ろうとした、池袋西武の百貨店文化やセゾン文化は、この後の改装で果たして再生されるのであろうか。7Fイベントホールや8Fアートギャラリーの完成を待ちたい。

デパート新聞編集長
