第1波~第5波 感染者数グラフ( 新型コロナ関連の情報提供:NHK )

新型コロナウイルスが日本にも浸透し、各社対策に追われているが、百貨店もその一つである。

百貨店への影響と、百貨店の対応を追っていく。

新型コロナウイルスの日本への浸透の流れと百貨店の対応

  1. 新型コロナウィルス感染症の始まり(2019年12月)
  2. 第1回緊急事態宣言発令による百貨店の対応 (2020年4月) ~営業時間短縮・休業
  3. 営業再開と百貨店の感染対策(2020年5月)
  4. 第2波(6月下旬~9月上旬)、第3波(11月~3月上旬)の中、来店数・売上の低迷が続く~インターネット販売の増加
  5. 2回目の緊急事態宣言 (2021年1月8日 )への対応~時短営業
  6. 3回目の緊急事態宣言 (4月25日 )への対応~従業員へのワクチン接種が始まる
  7. 4回目の緊急事態宣言 (7月2日~9月12日)への対応 ~従業員のクラスターと入場制限の導入
  8. 百貨店での感染者が急増(7月末~8月)コロナウィルス第5波の中
  9. 緊急事態宣言9月30日まで再度延長
  10. 緊急事態宣言が9月30日ですべて解除

1.新型コロナウィルス感染症の始まり(2019年12月)

2019年12月、中国の武漢市海鮮市場で原因不明の肺炎が確認されて以降、その感染症は瞬く間に世界中に広がっていった。

日本では、2020年1月16日に武漢市へ旅行歴のある感染者が見つかり、国内でも少しづつ感染者が増えていき、その後、大型クルーザー船「ダイヤモンドプリンス号」での感染拡大、札幌雪まつり、東京の屋形船などでのクラスターが発生したのは記憶に新しい。

3月11日、この感染症は WHO(世界保健機構) から「新型コロナウィルス感染症」と名付けられ、パンデミックが宣言された。
そして3月末には東京オリンピックの1年延期が決定した。

2.第1回緊急事態宣言発令による百貨店の対応 (2020年4月) ~営業時間短縮・休業

感染者が増え続ける中、2020年2月26日、新型コロナウイルス感染症対策本部(2020年1月30日設置)が、百貨店に対し、感染拡大防止策を要請。
要請を受けた百貨店は、営業時間の短縮、土日の臨時休業などを開始した。

2020年4月7日、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に、第一回緊急事態宣言が発令された。
2020年4月16日には対象が全国に拡大された。

この緊急事態宣言の発令に伴い、百貨店は8日からの臨時休業を相次いで発表した。
各店舗とも休業期間は、約1カ月間の予定だったが、その後5月末まで緊急事態宣言期間が延長となり百貨店の休業も続いた。

2020年5月14日、北海道、首都圏、関西圏を除く地域、21日には関西、26日には全国で宣言が解除となり、百貨店の営業が再開する。しかし、1か月以上にわたる臨時休業により、各店舗とも大幅な営業減収となった。また、外国人観光客の多い都市部の百貨店では、観光客が大幅に減少し売上に大きな打撃を与えた。

3. 営業再開と百貨店の感染対策(2020年5月)

銀座三越 2020年6月9日

営業再開後の各百貨店は、出入り口に感染防止対策に関する案内を掲示するなど、来店客への協力を仰いだ。

従業員には、マスク着用、飛沫感染対策、清掃、消毒などを実施。

来客へは、マスク着用、入り口での手指消毒と検温、店内での一定距離の確保の協力を依頼。各店舗のHPにて従業員感染者の詳細をお知らせするようになった。

従業員の感染者が確認された場合は、直ちに該当売り場を臨時休業とし、消毒。翌日から営業再開というケースが多くみられた。

4.第2波(6月下旬~9月上旬)、第3波(11月~3月上旬)の中、来店数・売上の低迷が続く~インターネット販売の増加

感染拡大が続き、夏には全国の感染者数が1000人を超え第2波を迎えた。その後も感染者数が増え続け各自治体から百貨店に対して営業時間の短縮などの要請が出された 。11月になると第2波のピークを超える感染者数が確認され、人々の巣ごもり生活が続き、百貨店の来店者数も回復しないままとなった。その一方でインターネットによる販売が増加したことから各百貨店では遅れを取っていたオンラインサービスの強化を目指した。

11月には三越伊勢丹で、オンライン接客アプリ「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」のサービスを開始した。専任のスタッフと直接会話ができ、スタッフはその場で質問を受けて提案もできるので百貨店に足を運ばなくても1対1の丁寧な接客を受けることが可能になった。

また、各社で試験的に行っていたデパ地下の食料品を家まで配達するサービスも本格的に始まった。対象商品の拡大や配達時間の短縮など新しいサービスが次々と出て、各社で内容が異なるが、どこも好調なスタートを切っている。どちらも巣ごもり生活に適したサービスであると同時に、高齢化社会のニーズともマッチしていて利用者には好評であった。

2021年1月に発表された「2020年の全国百貨店売上高」では、 4兆2204億円 、前年比25,7%減となり、1975年以来45年ぶりの低水準となった。商品別では、コロナ禍での新しい生活様式が反映され、食料品の売り上げが初めて衣料品を抜いた。他、時計・宝飾品・美術品など高級品の売り上げが伸びた。

5.2回目の緊急事態宣言 (2021年1月8日 )への対応~時短営業

12月末には、東京都の新規感染者が初めて1000人を超え、首都圏での感染が拡大したため、1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)に2回目の緊急事態宣言が発令された。この日の東京都の新型コロナウィルス感染者数は2447人、全国では7000人を超えた。その後対象地域が追加され、2度の期間延長により1都3県の宣言解除は3月21日となった。首都圏デパートは、休業は行わず営業時間短縮や時差来店協力をお願いするなどの対応を行った。

2月より医療従事者を優先してコロナワクチン接種が開始された。

6.3回目の緊急事態宣言 (4月25日 )への対応~従業員へのワクチン接種が始まる

従来のウィルスより感染力の強い「変異ウィルス」(デルタ株)による感染が拡大した大阪、兵庫、京都と新規感染者数が増加傾向にある東京都に対して、ゴールデンウィーク中の人流抑制を目的に5月11日まで、3回目の緊急事態宣言が発令された。しかし、感染者数が減少することなく、愛知、福岡、北海道、広島、岡山の5道県が追加され、期間が5月31日まで延長となった。

対象地域の百貨店では、昨年の1回目の緊急事態宣言時とは異なり、食品売り場のみ営業する店舗、生活必需品売り場の営業を継続する店舗、また全館営業、全館休業をする店舗など、店舗によって対応が分かれた。また、延長となる5月11日以降は、営業時間の拡大や一部売り場の営業を再開した。2021年前半は、身のまわり品、雑貨、食料品う売れ行きが好調で、引き続き時計・宝飾品・美術品などの高額品の売り上げが伸びた。

6月になると百貨店では、従業員のワクチン職域接種が始まる。自社雇用の従業員向けの接種が中心であり、取引先の外部社員を多く抱える百貨店では、ワクチン接種の足並みがそろわないことが課題となった。 また、職域接種の申請が予想以上に多かったためワクチンの供給量が間に合わず、6月25日には申請受付が一旦停止となった。

7.4回目の緊急事態宣言 (7月2日~9月12日)への対応 ~従業員のクラスターと入場制限の導入

7月2日に東京都へ発令された4回目の緊急事態宣言に続き、8月20日、 政府は新たに7府県(茨城、栃木、群馬、静岡、京都、兵庫、福岡)に緊急事態宣言を発令した。これにより発令中の6都府県(東京、沖縄、神奈川、埼玉、千葉、大阪)と合わせて13都府県が対象地域となった。さらに「まん延防止等重点措置」の対象も宮城、鹿児島など10県が新たに追加された。さらに、8月27日からは 8道県 (北海道、宮城、岐阜、愛知、三重、滋賀、岡山、広島)を追加。宣言の対象地域は21都道府県に、重点措置の適用地域は12県となった。 期間はどちらも9月12日まで 延長されオリンピック期間中も宣言期間内となった。

8. 百貨店での感染者が急増(7月末~8月)コロナウィルス第5波の中

全国での急激な感染拡大の中、 感染対策を徹底してきた百貨店での従業員クラスターが続いた。

「阪神梅田本店」では7月26日~8月8日、地下1階と1階の食品売り場を中心に従業員145人が新型コロナに感染しクラスターとなった。7月31日と8月1日に同店は全館を臨時休業し、感染が目立った食品売り場などの多数の従業員にPCR検査を実施して、コロナ対策を徹底した。

8月2日以降も閉鎖していた地下1階・1階の食品売り場は、8月20日に営業再開となった。

「阪急うめだ本店」でも7月27日~8月16日に89人の従業員が感染。感染者は地下1階の食品売り場と1階のアクセサリー・雑貨売り場を中心にクラスターが発生し、該当する売り場は臨時休業となった。8月27日にはすべての売り場が営業を再開した。 臨時休業となった売り場従業員2500人へのPCR検査を実施。 当面、2週間ごとの検査を実施 するとのこと。

「伊勢丹新宿店」では、7月29日から8月4日の1週間に70人の従業員の新型コロナウイルス感染が確認された。クラスターの認定はされず、食品売り場の一部店舗を臨時休業とした。

各社とも感染原因が不明のまま臨時休業などの対応に追われたが、感染者は主にデパ地下を中心とする食品売り場の従業員と報告され、入場制限などの対応が始まった。

クラスター(集団発生)の定義

厚生労働省によると「集団発生(クラスター)とは、当面の間接触歴等が明らかとなる5人程度の発生を目安とする。」

「新型コロナウイルス感染症における患者クラスター(集団)対策について(依頼)」令和2年2月26日

伊勢丹新宿店はなぜクラスター認定にならないのだろうか。

伊勢丹新宿店の感染者は、本館地下1階の食品フロア、婦人雑貨・化粧品フロアや婦人服のフロア、メンズ館など多数の売り場で発生し1か所で5名程度には至らないためクラスターの定義にはあてはまらないようだ。ここでは、およそ11,500人の従業員が勤務しているが、自社雇用の社員は約2,000人、残りの9,500人は取引先の社員とのこと。7月29日から1週間の感染者70名の内訳は、自社従業員1名、69名は取引先の外部社員だそうだ。感染者のほとんどを占める外部社員はテナントごとにワクチン接種を行うが、接種が進まないこともあり未接種の人が多かったようだ。

一方、伊勢丹新宿店が8月上旬に取引先の外部社員に示した「感染防止ルール」が物議をかもしだしているという。これは、取引先の社員がPCR検査を受ける際、伊勢丹新宿店側に検査受検計画書を提出して相談する必要があるという内容である。このルールに従うと、感染の疑いがあった場合すぐに検査を受けるのが難しくなる。これに関しては、すぐに検査が受けられないことへの不満に加えて、一日に発表する感染者数をコントロールするためではないかという疑問が多く上がったようだ。休業という事態を避けるための苦肉の策なのかもしれないが、伊勢丹新宿店側はそれを否定しているとのことで真意のほどはわからない。

参照:日経ビジネス2021.8.24

入場制限の要請

8月中旬、緊急事態宣言対象地域の知事は、1000平方メートルを超える大規模商業施設に対し、入場制限を要請した。 日本百貨店協会からは、各社に対し、食料品売り場を含む館内の入場者数を繁忙期などよりも5割削減するよう要請した。 各百貨店では人の集まるデパ地下を中心に入場制限を開始した。

三越伊勢丹、高島屋、大丸松坂屋百貨店などでは、宣言の対象地域にある店舗を中心に、来店者数が一定の数を超えた場合、地下の食品売り場につながる階段を一時、利用できなくするなどの入場制限の導入を始めた。

百貨店クラスターの原因は?

国立感染症研究所が、百貨店やショッピングセンターなどの調査を行い、クラスターの発生原因に共通すると思われる代表的な所見をまとめた。

売り場における従業員の衛生意識は高く、マスク着用は概ね適切に行われていたが、手指衛生などさらに改善すべき点を認めた
時間帯によって、客が密集した状態になる売り場を認めた
従業員が利用する食堂や休憩所等で密となりがちな環境を一部認めた
店舗による接触者の把握や管理が十分ではなかったと考えられた状況を一部認めた

参照:国立感染症研究所実地疫学研究センター2021年8月12日時点

そのほかに、ワクチン不足の為、職域接種が進んでいないことも原因の一つとして考えられる。

9.緊急事態宣言9月30日まで再度延長

「新型コロナ関連の情報提供:NHK」

9月9日、政府は新規感染者数や病床のひっ迫状況から9月12日までの緊急事態宣言を30日まで延長することを決定した。対象地域は、以下の通り

【緊急事態宣言】
北海道、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、広島県、福岡県、沖縄県

【まん延防止等重点措置】
宮城県、福島県、石川県、岡山県、香川県、熊本県、宮崎県、鹿児島県

百貨店については、引き続き入場制限などの規制が行われる。

10.緊急事態宣言が9月30日ですべて解除

9月28日、政府は19都道府県の緊急事態宣言と8県のまん延防止等重点措置について、9月30日の期限をもってすべて解除する方針を対策本部で正式に決定した。宣言と重点措置がどの地域にも出されていない状況は、ことし4月4日以来、およそ半年ぶりになる。

9月28日現在、日本のワクチン接種率(2回接種完了)は58.7%となった。政府は日常生活の回復に向け、今後「ワクチン接種証明書」の積極的な活用を検討している。百貨店の来店者へも感染のリスクが高いと判断された場所では、提示が求められる可能性もありそうだ。

大手百貨店の2021年8月売上高

前年比:三越伊勢丹計7.2%減、J.フロントリテイリング5.9%減、高島屋(国内百貨店子会社 既存店含む)9.1%減、エイチ・ツー・オーリテイリング(阪急阪神百貨店全店計)15.6%減、そごう・西武11.8%減

緊急事態宣言による入場規制や従業員感染者の増加による休業、来客数の減少などが影響し、どこも前年を下回る売上げとなった。

WITHコロナ~百貨店が求められるもの

誰もが「withコロナ」という新しい生活に慣れて楽しむようにもなってきた今、百貨店も今までの概念を捨てて「withコロナ」への舵取りを行っている最中である。その中で、通販の売上げが好調に伸びている。通販に関して遅れを取っていた百貨店がコロナに背中を押された形となった。また、巣ごもり生活の影響で食品の需要が増え、宅配の利用者が好調に増えている。さらに、外食や旅行を控えている人々が高級生活用品、時計・宝飾品・美術品などの高額商品の購入が増え、来店数は減少しているが客単価が伸びているのも新しい生活様式の影響だろう。

一方、店舗では出入り口を一部閉鎖した入場制限や消毒、換気、ソーシャルディスタンスなど感染防止対策を持続させているが、来客もこの対応に慣れて買い物を楽しむ様子も見られるようになった。しかし、感染症が流行する冬を迎えるにあたって第6波の襲来が予測され、今後も予断を許さない状況である。

コロナ前から客離れが進んでいた百貨店は、コロナの影響で大きなダメージを負い瀕死の状態である。人々の社交場であり憧れの詰まったわくわく感満載の百貨店はもう遠い過去のことになってしまった。今後、コロナ禍の中で百貨店が生き残るためには何が必要なのだろう。

百貨店の魅力は、「特別感」ではないだろうか。コロナ禍で体験した特別感は、通販で届く特別な商品。わざわざ出かけなくても百貨店ブランドの商品が手軽に手に入るようになったため、家にいても特別という満足感に浸れるひと時を提供してくれた。そしてデパ地下に並ぶ食品が短時間で家に届くようになった。画面越しに接客を受けられるようになった。店舗でのイベントにもネットで参加ができるなど客にとっては至れり尽くせりである。withコロナの中、新しい百貨店へと生まれ変わりつつある。ただ、その土台には店舗があるという安心感のようなものも存在する。

コロナの第5波が収束した今、家にこもっていた人たちが外へ出ていき、百貨店も賑わいを見せるようになったが、今までと同じ百貨店では客離れを止めることはできない。かつてのように、来客を満足させる斬新な百貨店改革が早急に望まれる。