デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年10月01日号-第146 回 池袋西武 改装完了?


全面リニューアルで混迷する現場 そして西武出身店長の更迭が意味するもの
西武渋谷店の閉店を3か月後に控えた6月30日、かつては西武池袋本店であった本館北と本館中央に、ヨドバシカメラが開業した。
一方西武百貨店池袋本店のリニューアルは昨年7月の3階化粧品フロアに続いたデパ地下の改装オープンから、早くも丸1年が経とうとしている
消えゆく渋谷、そして再生から1年の池袋、二つの西武百貨店の状況を見て行こう。
届いたメール
報道関係各位
2026 年9 月16 日
株式会社 そごう・西武西武渋谷店 営業最終日の取材対応について
平素より西武渋谷店の取り組みに関心をお寄せいただき、誠にありがとうございます。西武渋谷店は9 月30 日(水)をもちまして、58 年の歴史に幕を閉じます。
営業最終日は、多くのお客さまにご来店いただくことが予想されております。とくに閉店時間帯には、渋谷の中心部に位置するという店舗特性上、出入口付近で相当な混雑が発生する可能性が高いと認識しております。
当社ではお客さまおよび地域の皆さまの安全確保を最優先事項として運営にあたるため、閉店時の店長挨拶を含めセレモニーの類は実施を控えさせていただきます。
また、当日はご取材いただける場所をご用意しておりません。地元警察とも相談いたしましたが、多くのお客さまの来店が予想されることから、ご取材スペースの確保が困難との判断に至りました。なにとぞご理解くださいますようお願い申し上げます。
なお、出入口付近における、閉店時の取材・撮影 (シャッター降下シーンを含む)につきましても、近隣を通行する方々との接触等危険回避のため、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。
日頃よりご協力をいただいております報道関係の皆さまには心より感謝申し上げますとともに、本件につきましてご協力を賜りますようお願い申し上げます。
以上
西武渋谷店の閉店が迫る9月中旬、そごう・西武の広報から筆者宛てに「西武渋谷店最終日のご取材につきまして」という1通のメールが届いた。
※添付資料参照
中身は「西武渋谷店営業最終日の取材対応について」というタイトルのA4で、内容を要約すると以下3点となる。
- 最終日は来店客が多く、閉店時間帯にはエントランス付近で相当な混雑が発生する。
- 安全確保を最優先として運営するため、閉店時の店長挨拶やセレモニーは実施しない。
- 地元警察とも相談したが、スペースが確保できないので取材の機会は設けない。
文章は「以上なにとぞご理解くださいますようお願い申し上げます。」と結んでいる
いろいろな事情はあるにせよ、中々に異例な「要望」である事は確かだ。
確かに渋谷西武は元々コンパクトな建物であり、かつA館とB館に分かれている。
そして何より、巨大ターミナルである渋谷駅の間近である。東京というより、もはや日本の観光名所としてインバウンド客がごった返す「渋谷スクランブル交差点」の直ぐそばなのだ。建物は神宮通りと井の頭通りに面しており、ガードレールに囲まれた歩道は、何らイベントがなくても、普通に歩くのも困難である。この辺りの事は一応理解出来る。
渋谷に来ないで
まぁ、筆者お得意の「邪推」をすると、百貨店にとって「閉店」はけして明るく楽しいイベントではない。マイナスパブリシティをわざわざ大声で宣伝する必要はないのではないか、と考えたのかもしれない。
警察に相談したら「人込みは危険」と言われました、というのはちょうど良いエクスキューズ(言い訳)になる。本音は「マスコミは棄権」だとしてもだ。年寄りの「語呂合わせ」はこのくらいにしておこう。
筆者は「ハロウィンは渋谷に来ないで!」と宣言した渋谷区長を思い出した。別に渋谷公会堂(LINE CUBE)にメディアを集めて発表会をしてくれ、とは言わないが。
閉店の瞬間にテンパーの前で深く頭(こうべ)を垂れる店長とスタッフたち、そしてゆっくりとシャッターが下りる、大向うの客から「今までありがとう!」と声がかかる、という「絵」をメディアは欲しているのだが、その希望も今回は叶わない様だ。
いつもの様に前置きが長くて恐縮だ。渋谷西武の閉店については、9月30日に筆者が「密かに」取材して、このルネッサンスで報告するので、10月15日号までお待ちいただきたい。さて、本題は池袋西武である。
人事で揺れるそごう・西武
先日そごう・西武が発表した新たな経営体制(人事)が波紋を広げている。
10月1日付で行う組織変更と取締役ら幹部の人事異動は、改装中の西武池袋本店の全面開業が遅れに遅れている中での実施となるからだ。
さて、今年5月にセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文元会長が93歳で亡くなった。故・鈴木氏が主導しセブン&アイ傘下となったそごう・西武は、2023年9月にアメリカの投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループへと売却されるまで、17年の長きにわたり、当該巨大流通グループの一員だったのだ。
※もちろん、売却したのは鈴木氏を追い落としたセブン&アイHD井阪前社長だ。
フォートレス傘下に入ったそごう・西武は、旗艦店である池袋本店の全面改装を始め、小型店舗の出店やそごう横浜の本店化などを含めて「攻めの経営」に転じた、と言われている。だが、その一方で、西武渋谷店をはじめとする不採算店舗の整理を着々と進めているのも事実だ。ファンドの経営とはそういうものだろうし、利益を出すためにドラスティックな事をするのがファンドの役割というものだろう。
取締役会長の退任
今回のそごう・西武の人事で衝撃的だったのは、田口広人会長の取締役退任だ。9月末での取締役退任後も引き続き会長職に留まるとはいえ、そごう・西武出身者がだれひとりとして経営に参加出来ないのであれば、「会長」職は単なるお飾りに過ぎない。
経営陣からそごう・西武の生き残り役員が一掃され、フォートレスの幹部やコンサル出身者などで固められることになれば、フォートレス体制への完全移行のためにそごう・西武の幹部を追い出した、と言われても反論できないだろう。
池袋本店長の更迭
但し、筆者が一番驚いたのは、同時に発表された執行役員人事である。池袋本店の店長である寺岡泰博氏は、10月1日付で外商事業部の東京営業部長に異動すると発表されたのだ。しかも執行役員からも外れることになった。
本紙の購読者諸氏なら良くご存知の様に、寺岡泰博氏はそごう・西武の労働組合委員長として、2023年に実施した61年ぶりとなるストライキを主導した人物である。労組委員長の店長抜擢自体が当時極めて異例だった。※2025年の本紙5月15日号の4面の本稿を参照願いたい。タイトルは「西武百貨店池袋本店 店長に寺岡労組委員長」という、何のひねりもない記事だ。この「抜擢(ば ってき)人事」を耳にしたデパート新聞社主の田中潤は「毒を食らわば皿まで、だな」とつぶやいた。それは筆者の耳に今なお鮮明に残っている。
※寺岡泰博労組委員長の当時の奮闘の詳細を知りたい方は、拙著「セブン&アイはなぜ池袋西武を売ってしまったのだろう」を購読願いたい。https://www.mediapal.co.jp/book/3477/
スケープゴート
遅れていた池袋本店改装のスピードアップを期待されて2025年5月に起用された寺岡氏だったが、結果として就任から1年ちょっとで退任に追い込まれてしまった。結果論めいた話で恐縮だが、筆者はこれを「スケープゴート」だったのでは、と思うのだ。池袋西武を熟知している寺岡氏でさえ改装が遅れざるを得なかったのであれば、だれだったら出来たのだろう、という事だ。
最初から「リニューアルの遅れ」を前提として、労組出身の寺岡氏に責任を負わせて放逐(ほうちく)しようという魂胆だったのではないかと考えてしまうのだ。「スピード感が欠けているから」という理由でこうした「西武一掃」人事を断行したのではないかと。
当初2025年夏に予定されていた池袋本店の全面開業が遅れたのであれば、そのために就任したフォートレス出身で現在そごう・西武社長を務める劉勁(りゅうじん)氏自らが改装遅れの責任を取るべきであり、現経営陣が「そごう・西武出身者に改装を任せておけない」として退任させたのは「トカゲのしっぽ切り」にしか見えないのだ。
羊やトカゲ扱いされた田口会長や寺岡本店長はどう思っているのだろう。
もちろん「そごう・西武出身者を追い出したとて、改装遅れの根本的な問題は何も解決しておらず、全面リニューアルオープンは2027年になるのでは」と、今回の人事を知った関係者からは、こうした声が数多く上がっているのだ。
1年前に遡り、前述した本紙、令和8年5月15日号4面から一部再掲載する。
(2025年)4月23日、デパート業界に久々のビッグニュースが飛び込んで来た。
本紙で何度も単独インタビューを慣行した、そごう・西武労組の寺岡委員長がニュースの主役だ。
ニュース
そごう・西武は23日、旗艦店の西武池袋本店の店長に労働組合の寺岡泰博中央執行委員長をあてるという、異例の人事を発表した。尚、現店長の久保田俊樹氏は顧問に退く。
寺岡氏は2023年にセブン&アイ・ホールディングス井阪社長による外資系ファンドへのそごう・西武売却に反対。旗艦店である池袋西武を休館しストライキに打って出た。そして同年8月31日、同社組合員とともに池袋の街をデモ行進した。
今回の人事は従業員の信頼が厚い寺岡氏を店長に据え、現在改装中で、年内完成を予定している西武池袋本店のオープンに万全を期す構えだ。
但し、筆者周辺ではリニューアル工事の大幅な遅れがささやかれている。
夏過ぎに、食品売場等の再開はあるにしても、中~上層階の開業は、年内には難しいのでは、という観測が大勢を占める。
人事異動
人事は4月23日に開催されたそごう・西武の取締役会で決定され、就任は5月1日付となる。寺岡氏は1993年に西武百貨店に入社し、スポーツ用品や婦人服売場を中心にキャリアを積み、併行して組合活動にも従事していた。2018年から、セブン&アイの子会社となったそごう・西武の中央執行委員長を務めている。
そごう・西武を巡っては2023年に親会社だったセブン&アイによるフォートレス・インベストメント・グループへの売却について、セブンの井阪社長からそごう・西武労組への説明がなく、組合側が情報開示を強く求めた経緯がある。
労組はセブン側の売却後の事業計画や、雇用継続について反発を強め、百貨店業界で61年ぶりとなる店舗でのストライキを実施した。
ストライキ
寺岡氏は一昨年(2023年)8月31 日のストライキを主導し、実際にデモ隊の先頭に立った。そして、そごう・西武がフォートレスに売却された後も、委員長として労使協議で従業員の待遇改善に取り組んできた。
そごう・西武は23日、寺岡氏の人事の狙いについて「会社の再生計画を十二分に理解し、創業以来の大規模改装を完遂する上での統率力を持つ。旗艦店舗の収益最大化をけん引できる」と説明している。
本コラムの常連の方は、「またその話か」と辟易されているとは思うが、池袋西武はフォートレスと連携するヨドバシカメラの本館北側への出店により面積が半減する。因みにレストランもヨドバシフロアとなる。現在改装中の「ルイ・ヴィトン」や「エルメス」などの高級ブランド、化粧品、デパ地下の食品にアイテムを絞り込み、富裕層シフトし、高効率の「新しい百貨店へ」生まれ変わる。としている。
テーマは「INCLUSION(インクルージョン)」。特定の価値観で閉じられた贅沢ではなく、お客さま一人ひとりに、ひらかれた贅沢を提供するために。世界基準の百貨店へ。
あまり聞いたことのない言葉を、平気でキャッチコピーとして使うところが西武らしい。いや、褒めているのです。西武ファンなので。とにかく本紙としては、と言うか筆者としては、最大限のエールを寺岡新店長に送りたい。
※再掲載は以上。
顧客の意見
ただし、当時の内覧会に訪れた顧客に池袋西武リニューアルの感想を聞いてみると、売場の大きな変化に戸惑いを感じている人が少なくなかった。
多くの人が広々として明るくなったフロアに満足していたものの「今まで通っていたブランドがなくなった」「高級ブランドに偏りすぎている」「化粧品フロアが1階から3階に移動したので通いにくい」といった声も聞かれた。
また、今回の改装をきっかけに、「エルメス」など多くのブランドが撤退。ヨドバシカメラの出店により、池袋西武の売場面積は改装前の8800平方メートルから本館南を中心とした4800平方メートルに縮小しており、このことが大量の平場やブランドの撤退につながったのだ。
ベルリンの壁


【西武とヨドバシの関所】
フォートレスによる買収からまもなく3年が経つ。池袋西武は本当に生まれ変わることができたのだろうか。離れた顧客(東武に行ったきりの客)を呼び戻すためには、単なるリニューアルではなく、ヨドバシカメラとのシナジーを発揮することがポイントなのではと筆者は考える。
只、池袋西武とヨドバシカメラは、同じフロアでも2重の壁と2枚の自動ドアで仕切られ、客はクランクしないと行き来が出来ない。西武とヨドバシ両店共に、家電と百貨店は別世界であり、お客様も別々ですから、と宣言している様に感じるのだ。
筆者は何度もこの「関所」を通ったが、往来する客はけして多くない。平場も催事場も休憩スペースもない西武百貨店には、目的のテナントに向かう客だけが来店するのであり、只何となくブラブラする人はあらかじめ排除されてしまっているのだ。
デパ地下
名前を挙げるのも憚(はばか)られるが、銀座松坂屋百貨店がテナントビルのGINZA SIXになってしまった様な、そんな不思議な違和感に囚われるのだ。
そして現代のデパートの象徴となった「デパ地下」でさえ、池袋西武は総菜、弁当、スイーツは充実しているものの、生鮮三品(精肉、鮮魚、青果)や酒のコーナーは未だに復活していないし、復活するのかさえ定かではない。
※池袋西武ホームページ参照
書店
そして、驚いた事がもう一つ。池袋西武の最南端に位置する「三省堂書店池袋本店」が今年一杯で閉店するというのだ。亡くなった高野之夫前豊島区長が、ヨドバシカメラの出店に反対する理由としていた「池袋の街の文化が失われる」が現実のものとなってしまった。「三省堂が無くなったらジュンク堂に行けば良いだろう」という悪魔の囁きが聞こえる。
筆者はこうしたMDが、ファンドの効率化理論から外れてしまったのでは、と危惧しているのだ。であれば、食品をまとめて調達したい客が、東武に流れるのを止めることは出来ないだろう。改装休の時に仕方なく東武に流れた「西武ファン」も、売場がなくなったのでは戻って来られないのだ。
今回のそごう・西武出身幹部の一掃は、果たして「改革」なのか、それとも百貨店商売を甘く見たファンドの「暴走」なのか。池袋西武の「混迷」は更に深まって行く。
現場が混乱に陥ったのなら、それは紛れもなくフォートレスの戦略の瑕疵(かし)ではないだろうか。筆者はそう思うのだが。
※西武池袋本店のホームページから

【地下2階】食品フロア生鮮・酒休業のご案内
誠に勝手ながら、店内改装工事のため、【地下2階】生鮮・酒売場は2025年4月19日(土)から当面の間休業しております。
地下2階デパチカ(生鮮・酒)のオープンについて、くわしくは決まり次第ホームページにてお知らせいたします。
お客さまには大変ご不便ご迷惑をおかけいたしますが、何とぞご理解いただきますようお願い申しあげます。

三省堂書店 池袋本店 営業終了のご案内
■営業終了日:2026年12月31日(木)
※書籍館地下1階・1階は2026年10月4日(日)をもちまして営業終了
いつも西武池袋本店をご愛顧賜り、誠にありがとうございます。
「三省堂書店 池袋本店」は、2026年12月31日(木)をもちまして営業を終了いたします。また、2026年10月4日(日)をもちまして【書籍館地下1階・1階の営業を終了】し、10月5日(月)~12月31日(木)の期間は【別館地下1階のみ営業】いたします。長きにわたりご愛顧いただきましたお客さまへ、心より御礼申しあげます。

デパート新聞編集長


