渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第45回 水戸編第5回)

 2020年に老舗デパートが破綻して以降も、私の住む山形県山形市には往時を思い出させる催しが残っている。「北海道物産展」だ。

 デパート破綻の直後にはホテルの宴会場で、そのホテルが閉業すると道の駅で、と会場を移しながら現在もお客を呼び続けている。これまで『デパート放浪記』の取材でさまざまな地を訪ねてきた。どこで聞き込みをしても、やはりデパートの「北海道物産展」は人気だ。こうなると北海道のデパートでは何の物産展が集客力を持っているのか気になるが、ともかく、「自然豊かな北の大地」というイメージが、人々の購買意欲や体験意欲を高めるのかもしれない。 

「やっぱり全然違いますね。始まって最初の土日は、駐車場が30分待ちになるくらいです」
 京成百貨店の地下食料品売り場、その中のある店に立つ20代半ばくらいの女性が、「私も好きです」と言わんばかりの表情で答えてくれた。

 水戸においても、北海道は憧れの地らしい。

「大阪の……、何でしたっけ? ああ、5 5 1! 蓬莱の豚まんも人気ですけど、北海道は段違いですよ」

 デパート側としては、催事に足を運んできたお客が、ついでに他のフロアも回ってくれることも期待しているのだろう。しかし彼女によると、その効果はあまり目立っていないらしい。

「とにかく催事場がぎゅうぎゅうに混むんです。その中をあちこち見て回るわけじゃないですか。お客様はそれだけで疲れ切ってしまうみたいで」

 物産展の袋を両手に提げて、そのまま帰っていく姿も多いという。

「中でもよく目にするのは、どのお店の袋ですか?」

 私が尋ねると、彼女はチョコレートやチーズケーキなどのスイーツ系が多いと答えた。彼女自身もその出店を楽しみにしているそうだ。

「いろいろな農産物のある茨城でも、北海道は魅力的なんですね」

 そう言いながら私は、彼女のじゃまになっていないかを確かめるために辺りを見回した。

 昼食を買うには遅く、夕食のための買い物をするにはまだ早い時間なのかもしれない。それなりにお客の姿はあるが、私が誰かを遮っているという状況ではなさそうだった。

「ちなみに……」

 そう切り出した瞬間に、自分が二つの失敗をしていることに気が付く。一つはこれからしようとしている質問が、前の話にほとんど「ちなんで」いないこと。もう一つは、その内容が食品店の従業員に向けるにはやや礼を欠いているかもしれないことだ。

黄門そば

「水戸のソウルフードというと、どんなものがあるんでしょう」

 多少の気まずさを感じつつ、私は続けた。

 デパートと街のありのままを観察するというこの連載の趣旨において、「食」を理解することは外せない。それは観光客に向けた名物よりも、彼らが普段から愛好するソウルフードが望ましい。いささか私的な関心を重ねてしまっている気がするが、かといって全くの的外れでもないだろう。

 言い訳めいた思案を巡らせているうちに、女性店員は一人の生活者の顔に戻っていた。彼女は天井の方へ目をやりつつ、一瞬だけ口をすぼめる。

「『黄門そば』を食べてる人も多いですけど、……やっぱり『スタミナラーメン』じゃないですかね」

 翌日の午前10時、私はホテルで身支度を整えると、彼女の「かなり並びますよ」の言葉を頭に置きながら、教えてもらった店へと歩き始めた。

(続く)

スタミナラーメン