デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年07月15日号-第142回 PARCO「グランバザール」を中止 「長い夏」が招くセール崩壊


7月3日の金曜日、テレビ朝日から筆者宛てに電話があった。当日朝に日本経済新聞に掲載された、ある業界記事が発端だ。
パルコが夏の大型セール中止 猛暑で商戦長期化、50年の慣習に転機
2026年7月3日 日経
商業施設大手のパルコは初めて夏の大型セールを取りやめる。気温上昇で夏物のアパレルの販売期間が延びているほか、人工知能(AI)による需要予測で在庫を減らせるようになった。1970年ごろから約50年実施してきた商習慣は転機を迎える。
アパレルなどのセールを巡っては見直し機運が高まってきた。百貨店ではこれまでに三越伊勢丹ホールディングスや松屋などがセール期間を3週間ほど後にずらした。
このニュースを踏まえ、テレビ朝日からデパート新聞社に取材依頼が入ったのだ。
筆者は電話取材に応じ、翌7月4日の土曜日のテレビ朝日の朝の番組「グッドモーニング」のニュース検定のコーナーで取り上げられた、という経緯だ。
GRAND BAZAR
パルコは、大型セール「PARCOグランバザール」を今夏は開催しないと発表した。グランバザールは1970年から夏と冬の年2回、各ショップのセールとパルコの集客企画を全館一体で展開してきた大型キャンペーンであり、今夏はグランバザールに代わり、各ショップがそれぞれのタイミングでセールを実施しながら、パルコはIPコンテンツや各店独自の夏休み企画を組み合わせ、「セール中心」から「体験価値中心」の集客へ転換する。と、まるで広報発表をそのまま焼き直した様な文章で恐縮だ。尚、冬のグランバザールは開催を継続する予定だ、とのことだ。
55年続いた夏のセールだが、そのうち45年間はそこに携わった身としては、いろいろ感慨深いモノがあるのは否定できない、だが… いかん、いかん、昭和ジジイのノスタルジーを綴っているスペースはない。本紙に相応しいデパート(とSC)のセールの在り方を考え
てみたい。
業界的にはパルコが「グランバザール」を今夏は開催しないとの発表を受け、皆が真っ先に思ったのは、猛暑(酷暑?)の長期化によって従来の「アパレル業界カレンダー」が機能しなくなってしまったのでは、という事ではないだろうか。
アパレル各社では夏物の販売期間を延ばし、春や秋の売場づくりまで見直す動きが広がっている。気候変動は商品の作り方だけでなく、「セール」という長年の商習慣まで変え始めている、ということだ。もちろん買い手である消費者のセールに対する意識が変わってきている、という大前提も忘れてはいけない。
脱セール
そもそも、アパレルの販売においては、半年前から商品企画や展示会を行い、需要予測に基づいて生産や投入時期を決定するのが通例であった。
※この予測をAIが精査することにより、在庫管理が徹底され、今回の「脱セール」の動きにつながったという。
短い春、長い夏、予想不可能の寒暖差等々、単に「猛暑対策」程度の対応では、追いつかず、夏のセールそのものの見直しに踏み切らざるを得ない時期に来たのだ。
アパレル業界ではこれまで、「春・夏・秋・冬」という四季を前提に商品を企画し、セールの時期もMDカレンダーに沿って決めてきたが、近年は春が短く、夏が長期化し、気温と暦(こよみ)が一致しなくなった。
用語解説「MD」:マーチャンダイジングの略 商品を適切なタイミング、適切な価格、適切な量で消費者に提供し、購買意欲を高める戦略的活動。
多くのアパレル企業が夏商品の投入を数週間から1カ月前倒しする一方、猛暑が続く8〜9月まで夏素材のプロパー商品を継続するなど、従来のカレンダーから脱却する動きが増えた結果、ついに「7月になったから夏物を一斉に値下げする」という仕組み自体が崩壊したのだ。
パルコが「グランバザール」の替わりに打ち出したのは、全館一斉セールではなく、各ショップがそれぞれのタイミングでセールを行いながら、商業施設としては「体験価値」を軸に集客するという形だ。
ちょっとカッコ良く表現すれば「安く売れば人が来る」から、「来たい理由を作る」館へ、商業施設の役割が変わり始めたのであり、時代の要望に施設側応えた結果であろう。
「脱セール」の動きは、気候変動要因だけでなく、消費者の価値観含め、デパートや商業施設の販売手法や、存在理由(意義)まで変え始めている、という事だ。
個々の事例を検証する。
●2025年夏のセール
先ずは昨年のスケジュールを確認してみよう。関東のデパートと商業施設だ。
2025年6月27日(金) ~ 先行グループ
- 西武・そごう:6月27日(金)〜7月7日(月)
- タカシマヤ:6月27日(金)〜7月8日(火)
- ランドマークタワー他:6月27日(金)〜7月13日(日)
- マロニエゲート銀座:6月27日(金)〜7月21日(月・祝)
- 渋谷ヒカリエ:6月27日(金)〜7月23日(水)
- 東京ソラマチ:6月27日(金)〜7月31日(木)
- 京王百貨店:6月27日(金)〜
- マルイ・モディ:6月27日(金)〜
2025年7月1日(火)~ 中盤グループ
- 表参道ヒルズ:7月1日(火)〜7月13日(日)
- GINZA SIX: 7 月1 日(火)〜7月13日(日)
- SHIBUYA 109: 7 月1日(火)〜7月13日(日)
- ジョイナス:7月4日(金)〜7月13日(日)
- サンシャインシティ:7月4日(金)〜7月21日(月・祝)
- アクアシティお台場他:7月4日(金)〜8月31日(日)
2025年7月10日(木) ~ 後発グループ
- ルミネ:7月10日(木)〜8月6日(水)
- パルコ:7月11日(金)〜7月21日(月・祝)
- ららぽーと:7月11日(金)〜7月24日(木)
- 三越伊勢丹:7月11日(金)〜
2026年夏のセール
さて一方今年はどうなのか、スタート別にまとめてグルーピングしてみた。
2026年6月26日(金) ~ 先行グループ
- 三越伊勢丹
- タカシマヤ
- 西武・そごう
- 京王百貨店
- 渋谷ヒカリエ
- 東京ソラマチ
- マルイ・モディ
- ランドマークプラザ他
- マロニエゲート銀座
2026年7月1日(水) ~ 中盤グループ
2 0 2 6 年7 月1 日( 水) ~
- 表参道ヒルズ
- GINZA SIX
2 0 2 6 年7 月3 日( 金) ~
- ららぽーと
- サンシャインシティ
- ジョイナス
- アクアシティお台場他
2026年7月16日(木) ~ 後発グループ
2026年7月16日( 木) ~
- ルミネ(ニュウマン)
- SHIBUYA 109
2026年7月23日(木) ~
- ラフォーレ原宿

※因みに池袋西武はセールをしない

新宿伊勢丹
試行錯誤
昨年7月11日からグランバザールを開催したパルコは、今年は統一したセール名での開催を見送った事は前述のとおりなので除外した。
特筆すべきは天下の新宿伊勢丹を擁する三越伊勢丹だろう。去年はルミネ、パルコとともに、7月10or11日という「遅いグループ」に属していたのに、今年は一転6月26日の「早いグループ」に鞍替えしている。去年売れなくて戻したのか、いろいろ試行錯誤しているのかもしれない。例えば銀座三越では7月10日に「サマーパーティ」という顧客優待企画を実施した。新宿伊勢丹の「丹青会」の三越版と思われる。
逆に渋谷109は昨年の7月1日から7月16日に半月も遅くしている。ルミネも1週間程度遅らせている。パルコもそうだが、一般論として商業施設の方がテナントとの調整が大変なのであろうか。「百貨店は変化を嫌うから」と言うと叱られそうだが。
全体的な流れとしては、セールの考え方が変わって来たコトの証左なのだろう。
様々な意見
昔からのセールを懐かしむ昭和サラリーマンから業界通まで、ネットのコメントを見てみよう。売り手と買い手の本音が聞けて大変興味深い。
エンジョイセール派
・30年くらい前は、色々な百貨店のバーゲンに並んで、もみくちゃになりながら選んでいましたがそれも含め楽しかった。家に帰ると後悔したものも多いですが、あのエネルギーがあった頃に戻りたい。若き日の楽しかった思い出ですね。
季節対応待望派
・早めに売り切りたくてセールしてるのかもだけど、6月に肌寒くて長袖のTシャツでも欲しいなと思ってもほとんど夏物ばかりの品揃えになってしまっていたり、9月になってまだ暑さが続いていて洗い替えに薄手のもの欲しいなと思ってもほとんど秋物になってしまっていたりで、全部入れ替えずにお店の片隅にでもちょっと残しておいてもらえたら嬉しいなと
思う。
脱セール容認派
・若い頃はバーゲンで服を買うのが大好きでした。欲しい服を見つけても、在庫がある限りバーゲンになるまで待ちました。「安く買えた」「安い分たくさん買えた」が価値基準だったと思います。今は真逆。所有、管理することがストレスになるので、服は少なければ少ないほどいい。その分本当に気に入った物をタイムリーに、空いている店内でしっかり試着し
てから買うようになりました。今回のセール中止の受け止め方は、世代によっても違うのかもと感じます。
温存失敗再販派
・私のようなお得が好きな変わり者は、夏の終わりの安くなった時に、来年の夏用にすごく欲しいものは買って、1年寝かしてた。が、実際に翌年の夏が来ると買ったことも忘れており、気づいた時には季節もすぎている。値札付きで保管してるので、メルカリ出品が私の秋冬の風物詩になっています。
店試着ネット買派
・アパレル勤務です。私が働いてる館も今日からバーゲンですが、元々各ブランドごとにひっそりセール価格スタートしてるので、あんまり館ごとのバーゲンは関係ないかなと思います。お店に来て試着までしたのに、店内でスマホ検索してネットと値段比較してネットで買う人も多いです。
二季セール待望派
・最近、春秋物を着る機会がものすごく短くなってる。春に着ようと思っていたスプリングコートはほぼ着ないまま夏に突入していた。今年は涼しいけどね。同様に秋もおしゃれのシーズンだという古くからの感覚はあったけど、秋用ジャケットなど買っても年に1回着れるかどうかで寒くなる。夏用と冬用に絞って良いものを買った方が良いような気がする。でもそれなら夏終わりと冬終わりにはセールはやって欲しいところなんだけどなぁ。
購買変容是認派
・夏の一斉セールをやめる背景には、暑さだけでなく、いくつかの要因が重なっているのかなと思いました。ボーナス後で財布の紐が少し緩む時期ではありますが、物価高もあり、セールだからといって何でも買う人は減っていて、安くても本当に必要かを見る人が増えている気がします。さらにパルコのような施設は、単に安さで集客するより、ブランドやカルチャー、イベントで来てもらうほうが客層に合っている面もありそうです。
なんだか寂しさもありますが、ネット通販も増え、買い方そのものが変わっていくのも時代の流れなのかもしれません。
横並び推奨派
・結構前にルミネが商品価値を不用意に下げるべきではないって理由で夏セールの開催を遅らせた時に売上が激減した。商業施設の足並みが揃えば別だろうけど、他の商業施設が例年通りの開催ならパルコは苦戦すると思う。結局ショップが前年確保のためにセールを実施するならディベロッパーの告知がないだけというハンデにしかならない。
季節対応疲弊派
・商社に勤めていました。アパレルの担当と季節ごとの打合せをしょっちゅうしていました。春夏秋冬の4期ではなく、細かくは11期あるのです。このような細かい期ごとに、何か月も前から季節の暖冬を予想して、造っておくのです。外れれば二束三文になり、9割引きでも売れません。在庫に金がかかり、予想が外れ、生地代、原料が上がり、AIで予想まですれば、だれが在庫投資などするでしょうか。
熟したサクランボ
最後になって元も子もない話で恐縮だが、バーゲンいな人っているのだろうか?
実は筆者は「大好物」なのだ。何なら、今欲しいモノを定価で買うよりも、後でセールで手に入れた方が何倍も幸福度が高い。小売業界ではこういうヒトを「バーゲンハンター」とか、もう少し専門的に「チェリーピッカー」と呼ぶ様だ。
用語解説:チェリーピッカー 英語の「cherrypicker」に由来し「熟したサクランボだけを摘み取る」という意味で、「自分にとって有利な部分だけを選ぶ人」を指す。
マーケティング的には、セールやクーポンなどの特典がある商品だけを購入し、他の商品には目もくれない顧客なので、売り手からすると「儲からない客」である。
前述の繰り返しになるが、セールの見直しは、買い手の消費行動の変化に伴い、売り手の収益改善にも繋がるので、「悪い事」ではない。但し筆者の様な嗜好の客をすべて排除して、CRM一辺倒で商売が成り立つのかと言うと、正直疑問符がつく、と思っている。ここが「商い」の妙(みょう)だと、筆者は思うのだ。

デパート新聞編集長


