渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第44回 水戸編第4回)

 2階より上の売り場は、お客の入り方自体はこれまで見てきた地方デパートとよく似ていた。フロア全体としてお客より店員の方が多く、売り場の見守りや手入れに時間の多くが割かれている。しかし、やはりこの京成百貨店は何かが違っていた。

 どう表現すべきだろう。寂しさが感じられないのだ。「地方デパート売上高トップクラス」という情報が、私の視界に膜を張っている可能性もあるかもしれない。

 仮にそうだとしても、紙としての発行を終えたフロアガイド、省エネのために止められたエスカレーターなど、寂しさを呼ぶ要素をいくつか目にしている。それでもなお、足音の少ないフロアにどこか華やぎを嗅ぎ取れるのだ。


 何か理由がある気がする。そんなことを考えながら売り場を巡っていくと、8階でがらりと様子が変わった。

 ここには文房具や雑貨を扱う「ロフト」が入っている。1階を歩いていた若い世代は、ここを訪ねることも予定しているのかもしれない。売り場の棚に視線を送っている姿は、駅ビルで見たものと似ていた。

 間もなく12歳になる私の娘に、何か買っていこう。喜ぶものがありそうだ。自ずからそんな気持ちに切り替わった。しばらくして「取材の時間だった」と我に返り、フロアの巡回へ意識を戻す。次に現れたのは、刺激的な色合いで店頭を飾るドラッグストアだった。

 激安!

 デパートではなかなか見ない売り文句が、トゲトゲ型のPOPの中央に太字で張り付いていた。入り口付近のワゴンには、特価品が山積みされている。お客の姿は多い。小さな女の子と、その子の手を引いた女性が、何かを話しながら笑っている。その声は、商品の壁に遮られて私の耳には届かなかった。

 9階はレストラン街だ。時間はちょうど12時だった。

 お客は8階よりさらに増える。各店舗にはすでに、食事を楽しむ人たちの姿があった。シニア夫婦、赤子を連れた家族、スーツを着た集団とさまざまだ。店舗それぞれの入り口に置かれた立て看板を見るに、千円を切るメニューはほとんどなかった。

「えっ、これもおいしそう」

 数メートル先で、不意に甲高い声が響いた。

 研修中の新入社員だろうか、いわゆる「スーツに着られた」若い女性4人が、しっかりスーツを着こなした先輩らしき女性2人と談笑しながら、ランチの場所を品定めしているようだった。

 この時間の地下食品売り場も見ておこう。レストラン街を一回りした後で、そう思い立った。


 京成百貨店はシースルーエレベーターを備えていて、上階からは水戸の街が一望できるらしい。店内の表示を頼りにそちらへ向かう。複数の靴音が、私の後を追うように響いた。振り向くと、先ほどの女性たちが相変わらずにこやかな表情で歩いていた。

 耳に届く声を拾うに、食事する店を決め切れなかったようだ。

「じゃあ、今から6人で向かいますので」

 先輩らしき女性が、電話でどこかよその店を予約したようだ。彼女たちもエレベーターに乗るということだろう。

ー昼休みの時間は大丈夫なのだろうか。

 私がしなくてもいい心配をしているうちに、シースルーエレベーターが現れる。もともと3機あるそれは、1機を欠いていた。故障ではない。エスカレーターと同じように、「省エネ対策」との表示がされていた。

(続く)