渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第43回 水戸編第3回)

 カウンターに立つ女性は一瞬、私の背後へ、つまり京成百貨店のある方角へ目線をやった。

「おしゃれなスカーフですとか、いい香りのハンドクリームですとか、喜ばれるものがきっと見つかると思いますよ」

 その答えに、私は素直にうなずいていた。取材のための質問だったが、いつの間にか頭の中には母へのプレゼントを探す自分の姿が映っていた。

「ご自身でも、贈り物を選ぶときはデパートへ行かれるんですか」
 私のスーツケースをカウンターの奥へ移動させようとした女性に問い掛けてみた。女性はスーツケースに手を添えたまま顔を上げ、しばし考えるような表情を見せると、再びほほ笑む。

「そうですね。この辺りの人はそうしてるんじゃないでしょうか」
 女性は私の目を見ながらうなずいた。

「駅ビルも、すごく充実してましたね」
 先ほど女性の顔を横切ったものの正体を確かめたくなって、今度は私が女性の背後へ視線をやりながら言った。

 女性は、私が母の日のプレゼントを選ぶのに駅ビルへ行くことも検討していると考えたのだろう。もう一度、眉の下に思案の影を作った。

「駅ビルは若い方、20代のお客さんが多い印象ですね」
 私は礼を言ってフロントを後にした。ガラス扉越しに、カウンターの女性に頭を下げる。それから、駅ビルから遠ざかる方向へ足を振り出した。

水戸京成百貨店


̶感謝と新たな挑戦

 青い旗にその言葉を刻み、京成百貨店は堂々たる体つきで、それでいて清涼感をまといながらそびえていた。「新店開店20周年」と掲げられているのは、水戸の老舗百貨店・伊勢甚が2003年に閉店し、2006年、その跡地に京成百貨店が移転オープンしたかららしい。

 京成が県内唯一のデパートになったのは、2017年につくば市の西武が閉店してからだ。以来、県内の企業として随一の売り上げ規模、全国的に見ても地方デパートとしてトップクラスの売り上げを誇っているそうだが、内情はコスト高による赤字体質だという。

 そういった情報を頭に入れてみても、私の目に映る建物は凛々しいままだ。玄関を抜けると、ほどよく活気を感じられるフロアが広がった。

 人であふれているわけではないのだが、化粧品店にもアクセサリー店にも、スタッフとお客とが会話している姿が見える。いかにも接客といった堅苦しさはなく、かといって友人のような馴れ馴れしさもない。私が訪ねた時間には、これまで見てきた地方デパートのどこよりもお客の年齢層が若かった。

 この光景と「赤字体質」という言葉を結び付けるのは違和感があるくらいだ。フロアガイドを手に入れるためにカタログスタンドへ近づく。しかし見つかったのはフェアのチラシだけだった。

 切らしているのだろうか。そばのインフォメーションカウンターで尋ねることにした。

「申し訳ございません」
 よれのない制服を着た女性が頭を下げる。
「現在、フロアガイドはウェブサイトへの掲載のみとなっておりまして」
 印刷物としては作っていないという。原稿を書く際の参考にもらっておこうと思ったのだが、そういうことなら仕方ない。

 一通り1階フロアを歩いてみる。最上階までまんべんなく観察してから、最後に地下の食料品売り場を見ることにしよう。2階へ上がるためにエスカレーターへ向かう。間もなく私の足は、通路を遮る青いテープに制止された。

̶̶エスカレーター1台停止中

 省エネへの取り組みとして、平日は2機のうち片方を止めているらしい。
 私は「なるほど」とつぶやいて、もう一方のエスカレーターに足を乗せた。

(続く)