渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第42回 水戸編第2回)

 観光案内所で教えてもらった通り、水戸駅ビル「エクセル」のみなみ館3階には、農産県の地力を披露するかのような売り場が展開されていた。「べにはるか」「ほしこがね」「シルクスイート」など、さまざまな品種の干し芋や、水戸産の梅を使った和菓子が存在感を放つ。大量に並べられたわら納豆の迫力もすごい。それでいて売り場は品よく整えられていた。

 本館の方には「スターバックス」や「タリーズ」、「プラザ」に「無印良品」と、地元の人々の足も誘うであろう面々がそろっている。5階に広く売り場を持つ「川又書店」は、水戸で最も在庫数の多い書店らしい。

 前回の長野県松本市では、駅から徒歩15分の所に巨大なイオンモールが構えていると知って、デパートが置かれた環境の過酷さを感じた。今回は、まさに衣食住の全てを、しかも多数の選択肢によって満たすこの駅ビルに圧倒されていた。

 とはいえ、まだそのデパートを実際に見ていない。事前に調べたところによると、水戸の京成百貨店は、地方百貨店としては売上高がトップクラスらしい。2026年2月の決算実績は213億円だそうだ。水戸市より5万ほど人口の多い福島県郡山市の「うすい百貨店」は約116億円、その郡山より8万近く人口の多い岐阜市の「タカシマヤ」へ目を移すと、閉店の前年度である2023年で131・5億円となっている。確かにこの数字を見ると、立地条件の他に何かが潜んでいそうだ。

 まずは現場だ。駅の北口を出ると、雨の痕跡はほとんど消えていた。大通りにスーツケースを転がしながら歩く。視界に広がる街は、非常に整然としているといった印象だった。

 飲食店やスーパー、カラオケボックスなど、駅前らしい要素が立ち並んではいるのだが、それぞれ軒先の飾り付けやアイキャッチが控えめでシンプルだからだろうか、ごちゃごちゃした雰囲気がない。歩道の幅がたっぷり取られているのも、そう感じさせる理由の一つかもしれない。

 そんなことを考えていると、店から出てきた人影が私の目の前を横切った。白髪を後ろで丸くまとめた女性だ。女性は、そのまま車道寄りに置かれた背もたれ付きのベンチに腰掛け、何やら満足そうにほほ笑みながら長い息を吐いた。手に提げた袋を見るに、訪ねたのはこの店だけではないのだろう。

 少し進むと、またベンチが見えてきた。バス停に設置されているというわけでもないようだ。反対側の車道にも、同じようにベンチの姿がある。どうやらこの大通りには、買い物客などが足を休めるための場所があちこちに用意されているらしい。

 よく観察してみると、背もたれの裏には横長の札が貼ってある。そこには「人にやさしい街」とあった。南町二丁目商店街振興組合によるものだそうだ。

 駅を出てから5分と少しで、予約していたビジネスホテルの看板が見えてきた。フロントに立ち寄り、チェックインの時間までスーツケースを預かってもらえないかと尋ねてみる。カウンターの奥に立つ女性は快く応じてくれた。

「母の日の贈り物を探していまして……」
 ここでも怪談作家さん仕込みの問いを繰り出した。 

 聞きたいことの核心でなく、その周辺から触れてみるのだ。先ほどは駅構内という条件が大きく作用してかエクセルを紹介されたが、ここなら中立的な答えが期待できる。

「何か『これを』というものは決まっていらっしゃいますか?」
 しばし考える間を挟んでから、女性は口を開いた。

「いえ、実はまだ何も」

 私がそう返すと、女性は初めから保っている笑顔をさらにいくらか明るくした。
「でしたら、ここから歩いて行ける距離にデパートがありますよ」

 私はその存在を知らなかったかのように装いつつ、「デパートですか」と身を乗り出した。

(続く)