渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第41回  水戸編第1回)

 出発前日の4月21日夕方、青森県で最大震度5強の地震があった。揺れは私の住む山形県にも届き、山形と東京とを結ぶ山形新幹線は運転を見合わせることとなった。

 取材予定を変更せざるを得ないか。そのような考えが頭をよぎった。だが翌22日の午前6時25分、指定席を予約していた山形新幹線は、通常通りに運転を始めた。私の気掛かりは、窓の外におびただしい斜線を引く雨だけになった。

 10時25分、宇都宮と小山を経由して、電車は茨城県の水戸駅に到着した。雨は宇都宮で乗り換えた辺りからすっかりやんで、窓の上部には青空が広がっている。改札を出てまず、駅構内に観光案内所がないかと探した。

 平日の通勤・通学時間を過ぎたこともあってだろう、南北へ大きく口を開ける通路は、人をよけて歩かなければならないほどの混雑はない。だが同じ時間帯の山形駅と比べると、明らかににぎわっていた。

 2026年現在、山形市の人口は約23・7万人、水戸市の人口が約26・5万人だという。駅の造りも活気も1割以上の違いがあるように見えるのは、特急1時間と少しの距離で東京に接続されているからだろうか。つくば市や日立市など、県内に存在感のある都市をいくつか抱えているのも理由かもしれない。それでも、足場を守ることのできているデパートは「京成百貨店」だけなのだ。

 そんなことを考えつつ、目に入った観光案内所の扉を開けた。

「お世話になった方に、何か手土産を選びたいのですが」

 この連載を少しお休みさせて頂いている間に、ある怪談作家とお話しをする機会があった。不思議な体験をした人から実際に話を聞き、文章にしているその方は、取材の際に気を付けている点がいくつかあるという。

 その一つが「初めからこちらの知りたいことを聞かない」ということだそうだ。それよりも核心の周辺、遠回りするような質問から始めることで、語る人間の真意や背景が浮かび上がってくるらしい。確かに「あのデパートは地元の人から親しまれているのですか?」または「あのデパートは最近寂しくなってきましたか」と質問すれば、相手がこちらの意図を察して、それに合わせた答えを選ぶことになるだろう。

―こちらの問いで、相手の答えを狭めてはいけないんですよ。

 その言葉を、今回から私の胸にも刻み付けておくことにした。

「例えば、和菓子なんかはいかがでしょうか」

 観光案内所のカウンターに立つ女性は、私の質問からほとんど間を置かずにそう返してきた。

「茨城は農産県なので、芋や栗を使ったお菓子もおいしいんです」

 私が「この辺りで買えるのですか」と尋ねると、彼女は「エクセルで」と答えた。駅ビルの名らしい。

「手土産といえばデパート」といった連想の有無を探る目的だったが、駅で聞いたらまず駅ビルが出てくるのは当然だろう。何か違う角度からの質問はないかと考えを巡らせる。すると、カウンターの女性が再び口を開いた。

「京成百貨店というデパートもあるのですが……」

 ここで妙に食い付くと、続く言葉に影響するかもしれない。私はできるだけフラットな相槌に努めた。

 「そちらもいろいろな品物があって、おすすめです。ただ、ここから歩くと20分ほどかかるので、タクシーでなければバスをお使いになるのがいいかもしれません」

 なるほど。ターミナル駅とデパートの位置関係は、多くの地方都市と共通している。

 カウンターの女性に礼を言い、観光案内所を後にした。教えてもらった通り、まずは駅ビルを見てみよう。間もなく私の視界には「成城石井」や「しまむら」「ビックカメラ」の屋号が次々と飛び込んできた。
(続く)

水戸駅 看板にある店舗は東京と変わらない