デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年04月15日号-第136 回 シリーズ 編集長が聞く「トップの本音」インタビュー

西武福井店 田中香苗店長に聞く 「地方百貨店の再定義」

―食・ガチャ・SNSで若年層を呼び込み、コミュニティ拠点として生き残る道―

聞き手:山田悟(デパート新聞社)2026年4月7日 西武福井店にて

 福井県唯一の百貨店、西武福井店。店長就任4年目となる田中香苗店長は福井県出身で前身の「だるまや西武」時代に入社した生え抜きだ。 北陸新幹線の延伸で東京が2時間半圏内に入り、もともと関西志向の強い福井の購買動線はさらに広域化した。県外への購買流出は推計150億円。大型ショッピングモールがない一方、駅前のフルラインデパートとしての形を維持する西武福井店は、いかにして地域に必要とされ続けるのか。田中店長に、食の差別化戦略、ガチャ導入による若年層の取り込み、SNS活用、そして百貨店を「地域の器」として再定義する構想を聞いた。

福井のマーケット ──関西志向と新幹線がもたらした変化

山田(デパート新聞 編集長):福井のマーケットについてお聞きしたいのですが、この地域は中京圏なのか関西圏なのか、どちらのエリア(生活圏)に近いのでしょうか。

田中(西武福井店 店長):どちらかというと関西ですね。皆さん関西弁ですし(笑い)、進学先も関西に行く方が多い印象です。京都・大阪方面ですね。以前アンケートを取った時も、県外で買い物をする先として一番多かったのが京都・大阪でした。

山田:福井からどこかへ出かけようとなったら、やはり関西方面ということですか。

田中:そうですね。京都なんてもう車で2時間半あれば着きますから。電車でも敦賀まで新幹線で行って、そこからサンダーバードで1時間半ほどです。ただ、北陸新幹線ができてからは、「かがやき」で2時間半くらいで東京に行けるようになったので、東京圏・関東圏という選択肢も増えていると思います。

山田:京都まで2時間、東京まで2時間半。松本の方に聞いた時も「もう新宿までバスに乗っちゃう」という方が多くてびっくりしました。広域移動が当たり前になってきているんですね。

「5対5が最大化する」── 組織と人員バランスの持論

山田:百貨店は元々女性の比率が高い職場ですが、福井西武はいかがでしょうか。

田中:本当にもう9割が女性です。外商でさえ14人のセールスのうち半々ですし、売場はほとんど女性という感じです。私は常々、男女フィフティーフィフティー(50:50)が一番力を発揮すると思っているんです。これを10だとしますよね。女性が5、男性が5なら、掛け算で25。これが7対3になると21。つまり、バランスが偏ると全体のパフォーマンスが落ちる。これは私の講演とか結婚式の鉄板ネタなんですけど(笑)。

山田:5掛ける5の25が一番数字が大きい。とてもいいお話ですね、いただいていいですか。

田中:もういただきものなんですけど(笑)。つまり女性だからとか男性だからじゃなくて、どちらも大事ということです。

食品強化 ── 「日替わりお取り寄せ」362日の名物化

山田:デパ地下(食品)の全体比率はどれくらいですか。

田中:食品比率は3割くらいですね。4割まではまだいっていません。お土産に関しては、新幹線開業と同時に駅前の「くるふ」さんや「ハピリン」さんが地元メーカーの商品で強みを持っているので、うちはそこと同じ土俵では戦わず、「全国のものを発信する」という差別化をしています。

山田:(A4サイズのチラシを見ながら)日替わり限定お取り寄せ、これはカレンダー形式で展開されているんですね。

田中:そうなんです。お正月の3日間以外、362日やっています。このチラシだけは新聞折込みにしなくても、お客様が一番持って帰ってくれるチラシに育ちました。A4両面で、その月のスケジュールが全部載っている。金曜日はちょっと多めに2アイテム入れたりして工夫しています。

山田:これはもう福井西武の名物ですね。どなたが中心に開拓されているんですか。 

田中:本部の支援もありますが、お菓子売場の中山さんという女性スタッフが一生懸命開拓してくれています。現場から自分でアプローチして、電話して、入れたいと。私はもう「こんなの食べたい、あんなの食べたい」と言うだけ。それを叶えてくれるんです。(笑)


ガチャ導入 ── 若年層来店の「入口」をつくる

山田:今回、ガチャガチャランドの企画をやらせていただきますが、若い人に来てもらうきっかけとして手応えはありますか。(選べるガチャガチャランドは4月8日~5月6日まで西武福井店6階催事場で開催中)

田中:福井でも去年から百貨店にガチャを、と思ってはいました。若い世代に支持されているものを取り込みたいという気持ちがあって。無印良品さんが退店した後のスペースに、地元企業にお願いしてガチャガチャコーナーを出してもらったんです。6階で催事契約で始めて、7階にも導入しました。

山田:うちのガチャはマシンを使わず、カプセルトイをそのまま売るという方式なんですが、横にマシン型の売場があるのは初めてで、相乗効果が期待できますね。

田中:ええ、両方あっていいと思います。

山田:百貨店はもともと定価販売の商売ですよね。カプセルトイが何種類かあって「これが欲しい」というものが出るまで何回もお金を使わせるのは、百貨店の商売としてはどうなのかと。マシン式を否定するわけではありませんが、お客様が選べるという我々の様な方法があってもいいんじゃないかなと思っているんです。

SNS活用 ── インスタグラムが来店動機の主力に

山田:カプセルトイを買う方は、やはりSNSやインスタを見て来店されるのでしょうか。

田中:インスタは最近始めたばかりなんです。2〜3ヶ月前に本部の許可を得て運用を開始し、フォロワーがやっと1000人を超えたくらいです。

山田:1000人がすぐ1万人になったりするのがSNSの世界ですからね。来た人が「こんなのあったよ」と投稿すると、それを見た人がまた来てくれる。昔の「良い口コミ」を現代版にしたツールだと思います。

田中:先月、初めて「マッシュバーゲン」という企画でインフルエンサーやインスタを活用したんですが、来店動機のアンケートを取ったら、一番多かったのがインスタでした。やはりこの時代に合ったSNS活用は大事だと実感しています。

重点顧客の高齢化と「わざわざ来る理由」の創出

山田:フルラインの百貨店の形を保てているのはすごいことだと思います。フロアを縮小して運営される百貨店も増えていますから。ただ、お客様はやはり年齢層が上がってきているのでしょうか。

田中:もう60代から80代で支えられていると言っていいでしょうね。お得意様の次世代顧客、30代から40代の方を取り込みたいとは思っています。外商もそうです。工芸品や美術品だけでない、新しい何かを模索中です。

山田:50代・60代以上のお客様を大切にしながら、若い方にも来てもらうという二面戦略ですね。

田中:そうですね。ガチャもそういう狙いがありますし、品揃えの強化も必要です。百貨店って情報発信の場でもあるはずなんです。ただ、情報発信に偏って「売れる商品」という視点が弱くなっているところもあるので、その改善も必要です。

観光と都市戦略 ── 「福井で泊まる」導線をつくる

山田:福井では恐竜で町おこしという流れもあると思いますが、百貨店としてはどう連動するのでしょうか。

田中:恐竜はだいぶ福井に定着してきました。ただ課題は、恐竜博物館に行った後、そのまま金沢に泊まって帰るという流れなんです。それは福井市としての課題でもあります。百貨店にサテライト的な機能を持たせて、お客さんに来てもらえないかなと考えています。

山田:宿泊施設の数が圧倒的に少ないのも影響していますよね。

田中:金沢は駅周辺に2万人、富山も8千人。対して福井は3千人くらいのキャパと聞いてます。全然受け入れができていないと、行政も課題をもっています。再開発が進み隣接エリアに新しくホテルができ、増やしていく計画は進んでいます。また2028年にはアリーナ建設の計画もあります。地元のバスケットボールチーム「ブローウィンズ」がB1に上がるために5000人収容の施設が必要で、県民も応援しています。

山田:人口減少の中で、どうやって来訪の理由をつくるかが大事ですね。

田中:福井県の人口は75万人ですが、2050年には50万人になると言われています。地元の方に愛されることはもちろん大事ですけど、やはり国内のお客様に「ここにしかないもの」を届けて、来てもらうことが大切です。インバウンドよりもまず国内需要ですね。

「モノを売る場」から「コトを楽しむ場」へ ──百貨店の「器」としての再定義

山田:最後に西武福井店の方向性についてアピールしたいことはありますか。

田中:今、いろいろなアンケートを取っているんです。お客様を知る、競合を知るということで。その中で、県外で買い物をされる方の金額を積み上げると、150億円くらい県外に流出している計算になります。その理由は、品揃えの不足と、やはり都会的な空間、しつらえも大事だと思います。品揃えをしっかり充実させて、トレンドを発信する。そして人とのつながり、コミュニティとしての機能も大事にしながら、魅力ある、支持される店にしたいなと思います。

山田:競合環境はどうですか。近くに百貨店は。

田中:金沢の大和(だいわ)さんくらいですね。イオンモールは福井にはなくて、イオンスタイルが去年初進出しましたが小規模です。ショッピングセンターとしてはエルパさんがあるくらいで。

山田:そういう環境だからこそ、売上だけじゃない、地域の核になるような役割が大事になりますね。百貨店という「器」を使って、公益的な拠点にしていくということですね。

田中:百貨店がなくなると、県の価値というか文化的なものが一つ減ってしまう。お客様からも「百貨店頑張れ」と言っていただくんですが、そう言うなら使ってくださいと(笑)。家族で楽しむ場がショッピングセンターに移った現実はあります。でも「わざわざ来る理由」を私たちが作り続けなければいけない。放っておけばどんどん存在感が薄くなりますから。

ガチャガチャは被災地支援 ── 購買と社会貢献をつなぐ

山田: ガチャガチャランドで大事なのは、収益の一部を被災地支援に充てているということです。「カプセルトイを購入することで被災地への支援になりますよ」というメッセージは、百貨店としての社会的な意義を示すうえでも重要なポイントだと思います。